「特売品」で損する人が知らない値札の読み方 不利益防ぐユニットプライス制に存亡の危機

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制度の廃止は、消費者が不利益を被りかねないのに、なぜそれを断行するのか。2016年に制度を廃止した神奈川県は、その理由として「消費者の商品選びの基準が価格だけでなく品質や機能など多様化し、表示の必要性が低下したため、廃止しても消費者に不利益はない」などの理由を挙げている。ただ、不利益がないことを十分に検証したとは想像しがたく、安易な廃止はあまりに消費者視点を欠いている。

さらに問題なのが、この制度を存続させている都道府県であっても、その順守率が極めて低いことである。東京都が、2015年に行った調査では、対象店舗169店のうち、76%に当たる130店で不適切な表示(ユニットプライスの非表示を含める)が行われていた。

日用品の値上げが頻発し、消費税のさらなる増税も検討されている中、多くの消費者にとって節約は喫緊の課題になっている。総務省の家計調査によると、消費支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数は、2016年は29年ぶりの高水準になるなど生活費高騰がいわれている。消費者ニーズの多様化に応えて企業がさまざまな容器・容量の商品を流通させるようになった現代、複雑な暗算をしなくても簡単に商品のコストを比較できる、ユニットプライス表示の必要性は高まっている。

海外では全商品で表示を法制化したところも

海外では、EU諸国やオーストラリアなど、消費者保護のためにユニットプライスの表示を法制化し、全商品に適用している国も多い。

オーストラリアのビーフジャーキー。「$59.80 per kg」がユニットプライスだ(筆者撮影)

国ごとに異なる表示方法を統一し、よりわかりやすい単価表示を目指す国際規格(ISO)の策定も進んでいる。

日本でも、私たちの家計に直結するこの制度の価値を再考し、時代に合ったあり方を検討していくべきではないか。消費者が住んでいる地域によって、また利用するスーパーによって、ユニットプライスが表示されていなかったり、単位に一貫性がないのは不便である。

消費者もまた、店頭の「お買い得」といった表示を鵜呑みにせず、こうした情報を基に品物を吟味して、主体的に選んでいく姿勢が求められている。

加藤 絵美 消費生活専門相談員・日本女子大学非常勤講師

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かとう えみ / Emi Kato


消費者保護政策、消費者教育、苦情対応マネジメントシステム、苦情対応が専門。行政機関での消費生活相談員、企業のお客様相談室長などの経験を経て現職に至る。特定非営利活動法人親子消費者教育サポートセンター理事長。日本女子大学大学院・家政学修士。

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