日本経済にはこの秋以降、円高リスクがある 世界経済は利上げに耐えられるほど強くない

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また2016年後半からの総需要の伸びが、労働市場でのさらなる雇用創出をもたらし、完全失業率は2017年初から3%を下回る水準で定着している。もっとも、メディアでは「人手不足」という困難に企業が直面していると報じられているが、経済成長を損なうほどの人手不足には至っていないのが実情だろう。そもそも、日本経済は1990年代半ば、つまりデフレが始まるまでは、2%台の失業率を安定的に保っていた。それが日本経済にとって正常な経済状況であり、2017年に、ようやくそうした正常な状況に近づいているだけのことにすぎない。

メディアでは、一部の民間エコノミストによるナイーブな分析をベースにした「構造的な失業率は3%台半ば」という説が、消費増税が実現した2014年前後には広がっていた。就業を希望する人がほぼ全員就業するのが構造失業率・均衡失業率などといわれるが、これを実際の失業率が下回れば、人手不足が行きすぎて持続しないということになる。ただ、こうした「3.5%の構造失業率」には、筆者は当時からかなり懐疑的であった。2014年7月の当コラム「人手不足の何が問題なのか?」では、当時失業率は3.5%まで低下していたが、「需給バランスがさらに改善する余地が大きい」と述べている。

需給逼迫による賃金上昇は起こっていない

本当に経済全体で人手不足となっているのであれば、需給逼迫によって賃金上昇が起こるのが、市場メカニズムである。2017年時点でかつてのような賃金下落は終わったが、賃金上昇はわずかな伸びにとどまっている。

1つには、就業を希望するが働くことができない人は、経済全体で依然相当程度残っているということがある。労働市場の需給全体が改善し、労働市場で余っている人が枯渇するような状況であれば、賃金を引き上げるなど労働条件を改善させ、人手確保を行う過程で賃金は上昇しているだろう。つまり、2017年半ばまでの賃金の状況を考えれば、失業率が2%台に低下しても、依然そうした状況に至っていないと考えるのが自然である。

労働市場全体で需給が改善する余地は依然残るが、メディアが報じるとおり宅配・外食などの労働集約的な産業では、人手不足に直面している企業が増えているのは事実である。

こうした中、外食小売などでは深夜営業の短縮・廃止が起きているが、これは人的資源の浪費を止めて、生産性が低いビジネス領域が削減されることを意味する。

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