バノン解任でトランプ政権の「敵になる人々」 忘れられた人々への対応をどうするか
ドナルド・トランプ政権からスティーブン・バノン首席戦略官が退任した。グローバリズムに反旗を翻し、米国の経済利益を最優先する「経済ナショナリズム」の急先鋒と言われたバノン氏の退任によって、トランプ政権の経済運営はどのように変わるのか。そのヒントは、退任でも変わらない3つの現実にある。
第1に、バノン氏は退任しても、トランプ氏が大統領であることに変わりはない。トランプ政権下での混乱は、大統領のツイートや発言が元凶となっている場合が多い。トランプ大統領が変わらない以上、大統領を震源とした混乱は続くと考えたほうが良いだろう。実際に、バノン氏退任後の8月22日にアリゾナ州フェニックスで行われた演説は、メキシコ国境への壁の建設を強く求めるなど、トランプ節全開だった。
トランプ政権はオーソドックスな共和党路線
バノン氏の影響力は、過大評価されていた可能性がある。バノン氏がトランプ大統領の選挙運動に参画したのは、選挙戦も終盤の2016年8月になってからのことだ。中国やメキシコに対するトランプ大統領の攻撃的な発言は、バノン氏が選挙戦にかかわる以前から行われていた。
だからといって、トランプ大統領自身が混乱の元凶であるという事実が、必ずしも経済ナショナリズムの定着を意味するわけではない。そもそも、大統領の過激な発言とは裏腹に、実際のトランプ政権の政策運営は、オーソドックスな共和党の路線に近かったからだ。
その典型が、通商政策である。これまでトランプ政権下では、過激な保護主義は実現してこなかった。TPP(環太平洋パートナーシップ)協定こそ離脱したものの、脱退表明が検討されていたNAFTA(北米自由貿易協定)は、ひとまずは再交渉へと進んでいる。
厳しく批判してきた中国についても、為替操作国の認定や高関税の設定は見送られている。通商法301条の調査対象とされた中国の知的財産権問題にしても、その対象は世界的に問題視されてきた論点であり、WTO(世界貿易機関)を使った解決の道筋も残されている。
通商政策だけではない。富裕層増税の支持や大企業批判など、トランプ大統領が民主党に近い立場を示すことがある経済政策でも、実際には富裕層に厚い減税が立案されており、企業合併を差し止める動きもない。外交政策についても、トランプ大統領は米軍のアフガニスタンからの早期撤退を主張していたにもかかわらず、実際には増派に道を開く決断を行った。
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