バノン解任でトランプ政権の「敵になる人々」 忘れられた人々への対応をどうするか

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トランプ大統領を支持した人々の特徴は、将来世代の暮らしに対する期待の低さにあった。大統領選挙のさなかに行われた世論調査によれば、トランプ氏の支持者は「次世代の暮らしは今の世代よりも悪くなる」と考える割合が高い点が、対立候補であるヒラリー・クリントン氏の支持者との大きな違いだった。

実際に米国では、子の世代が親の世代を追い抜いて行くことが難しくなっている。1940年に生まれた子の場合は、その9割は30歳の時点で実質収入が親の水準を超えていた。ところが、1984年生まれの子になると、親の実質収入を超えられた割合は5割程度にまで低下している。

忘れられた人々が「裏切られた人々」になる可能性も

根本的な問題は、忘れられた人々への対応策が見当たらない点にある。保護主義や移民排斥などの経済ナショナリズムが、次世代への期待を高める政策になり得ないことは明らかだ。しかしながら、共和党や民主党のオーソドックスな政策が、忘れられた人々の期待を裏切ってきたのも事実である。

経済ナショナリズムによって忘れられた人々の支持を集めたのは、バノン氏の戦略でもあった。そのバノン氏の退場は、ますます忘れられた人々が忘れられていく可能性を示唆している。既存の政治を変えるとしてきたトランプ政権が、実際にはオーソドックスな共和党の政策への傾斜を強めれば、忘れられた人々は「裏切られた」という思いを強めるかもしれない。

そうした不満のうっ積は、今後の米国政治の不安定要因となる。来年11月には議会の中間選挙、さらに2020年11月には次の大統領選挙が行われる。忘れられた人々への対応が進まなければ、もう一段の混乱が発生する可能性もありそうだ。

安井 明彦 みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部長

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やすい あきひこ / Akihiko Yasui

1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、現職。政策・政治を中心に、一貫してアメリカを担当。著書に『アメリカ 選択肢なき選択』(日本経済新聞出版社)などがある。

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