オバマの来店も断った「天ぷら職人」の哲学 ミシュラン常連料理人の仕事論

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ところが、最初は本当にお客さんが来なくて苦しみました。自宅はもちろん兄の資産も担保にして銀行からおカネを借りていましたからね。もう、首をくくるしかないと思った。

でも、開店3カ月が過ぎた頃、ある雑誌のライターさんがうちの店を見つけてくれて、「あの近藤がここにいる」と記事にしてくれた。それで少しずつお客さんが増えて、開業時の借金は7年で返すことができました。2009年以来、ミシュランガイドで星を獲得し続けていることもあって、今は外国からのお客さんも増えましたね。

「未熟であることが大切」

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和食は技術を語らずに門外不出にしているところが多いと思いますが、それでは世界から取り残されてしまいます。技術はどんどん見せて、普及させていかないと。うちは「YouTube」でも技術を公開していて、世界中からアクセスがあります。

一人前になるには時間がかかりますが、天ぷら職人というのはただ揚げるだけの仕事ではありません。魚の知識も必要だし、仕込みもできなければいけない。接客の機微も一朝一夕では身に付きません。基礎をちゃんと身に付けるまでには時間がかかるものなんです。これはどんな仕事でも同じだと思いますが、ガマンのできない人がプロになるのは難しいんですよね。

若手と接するときに気をつけているのは、昔の苦労話をしないことでしょうか。あとはやたらと怒らないこと。若い人には、言って聞かせてもあまり効果はないんです。大事なのは、トップが行動で見せること。私自身が絶えず努力し成長していかないと、誰もついてこないと思っています。

かつて池波正太郎先生がおっしゃっていた言葉を思い出すと、励まされるんです。「コンちゃん、未熟であることが大切なんだよ」と。絶えず理想どおりにはいかなくて、100点はありえないんです。だから、日々工夫し、努力し続けるんです。


聞き手:齋藤 理、文:泉 彩子、企画:クックビズ Foodion

近藤 文夫 「てんぷら 近藤」シェフ

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こんどう ふみお

1947年、東京生まれ。1966年、山の上ホテル入社後、1971年「てんぷらと和食 山の上」の料理長に。1991年独立し、「てんぷら 近藤」を開店

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