オバマの来店も断った「天ぷら職人」の哲学 ミシュラン常連料理人の仕事論

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野菜を積極的に天種に取り入れるようになったのは、23歳で「天ぷらと和食 山の上」の料理長に抜擢されてからです。就任当時、同店は月商100万円に届かず、ホテルの売り上げの足を引っ張る存在でした。

でも、入社5年目にして大役を任されたので、なんとかして店を成長させたいとヒントを求めて、当時はあらゆる料理を研究して食べ歩きました。そのときに、天ぷらの専門店で野菜がほとんど使われていないことに気づいたんです。お若い方はご存じないかもしれませんが、当時は野菜を揚げたものは「総菜屋さん」で出すもので、ある程度のランクのお店のメニューにはなかったんですね。

どうしても野菜を使わなければダメだと思った

天ぷらを単なる和食のコースの1品に終わらせないためには、野菜が必要だと感じていた(写真: 清水知成)

でも、私はどうしても野菜を使わなければダメだと考えました。というのも、私は天ぷらを日本料理やフランス料理といった料理のジャンルの一つとして成立させたいという思いを持っていたんです。

世界中のどの料理も、その土地の野菜を使っている。天ぷらを単なる和食のコースの1品に終わらせないためには、野菜を取り入れ、天ぷら中心で飽きさせないコースを組めるようにしなければと思いました。

それができれば、天ぷらをすしに負けない和食の代表格にできるかもしれない……そう考えて社長に話したところ、「俺もそう思う。やってみろ」と言ってくれました。

野菜の天ぷらを出し始めたときは、お客様の反応はさまざまでした。「総菜を食いに来たんじゃない」というお叱りを受けたこともあります。野菜の風味を生かすために天ぷらの衣を薄くしたのも、「こんなのは天ぷらじゃない」と言われたり。

でもね、それまでの天ぷらは衣が厚くて油を吸いすぎてベタベタしていた。油が残らないように揚げたほうが素材の味を楽しめて、お客さんにも喜んでもらえる。そう信じていたので、自分の考えを貫いたんです。

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