韓国「伝統」の街が消滅に向かう再開発のワナ 「昔ながらのお店」が立ち行かなくなる理由

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骨董品店や古美術店が多いことで知られてきた韓国・ソウルにある街「仁寺洞(インサドン)」のメイン通り。近年はテナント料の上昇を受け、昔ながらの店が減りつつある(筆者撮影)

「あれっ、あの店はどうしたんだろう? ここはこんなお店だったっけ?」

ソウルの街を歩いていると、こんな風に思うことがしばしばある。
店がどんどん変わり、街の表情も短いスパンで移っていく。

昔ながらのお店が姿を消してゆくソウル市内

例えば、ソウル市内の芸術大学がある街として知られる「弘益大学(弘大)」。隣接する大学街の「新村」からもアーティストが移り住み、人気のクラブやライブハウス、流行の先を行くおしゃれなカフェや飲食店、バーなどがぎゅっと集った街としてかつては若者のメッカだった。

もちろん、今でも若い世代には人気の場所だが、今の時代を切り取るような店はその周辺、さらにまた周辺へと移動していて、昔ほどの勢いは感じられない。

韓国でここ2、3年よく言われるのが、こうした「ジェントリフィケーション」問題だ。「ジェントリフィケーション」といえば、アメリカでの事例が代表的だ。

低所得者層が多く住む地域で、再開発や文化活動が始まる。そして、アーティストやスター、ミドルクラスが移住して街の再開発が進む。そこへ不動産関連の事業者が参入、地価が高騰して、もともと住んでいた人たちが転居せざるをえなくなる――。欧米でいわれる「ジェントリフィケーション」はざっとこんな現象をいうが、韓国でのこの言葉の使われ方は少し異なる。

韓国では、話題の店などができて、流動人口が生まれた地域に不動産関連事業者が入り、テナント料が高騰。以前からそこで商売をしていた人たちが立ち退きを迫られる状況のことを指す。欧州のジェントリフィケーションが「住居地」の変化なら、韓国の場合は「商圏」の変化とでも言おうか。

行政側も、この問題に手を打ってはいる。2年前、ソウル市は深刻化するジェントリフィケーションの総合対策を発表し、対象として市内6カ所の街を選定した。その中の一つが前出の弘大だ。

韓国の全国紙記者が言う。「弘大のテナント料はここ2年で4.1倍に跳ね上がっています。それでもこの1年くらいの間に店が周辺に分散したこともあって上昇率が少しだけ下がりました。ソウル市内でも今いちばんホットな場所として知られる街のテナント料はここ2年で10倍近く高騰しています。ソウル市はそうした状況に歯止めをかけるため、フランチャイズチェーン店の出店を制限するなどの対策を始めています」

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