太陽電池・世界大バトル! お家芸が一転窮地に、日本メーカー逆転への一手

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液晶装置メーカーが製造ラインを丸ごと販売

「本当にモノが出てくるのか」--。インドの首都デリーから南東へ車でおよそ1時間。海外企業の工場も数多く集まるノイダに作られた太陽電池の新工場が、日本をはじめとする世界の業界関係者から熱い視線を集めている。工場の主はモーザーベアPV。インドに本社を置く光ディスク製造の世界最大手、モーザーベアが05年に設立した太陽電池の製造会社である。太陽電池の新規参入企業が相次ぐ中で、同社が注目を集めるのには理由がある。

まず第一に、新工場で製造するのが、薄膜と呼ばれる新タイプの太陽電池である点だ。シリコンの塊をスライスして作る従来の結晶系太陽電池とは違い、薄膜はガス状のシリコン(モノシランガス)をガラス基板に積層して作る。製造原理自体は液晶と同じである。高価なシリコンの使用量が現在の100分の1で済むうえ、生産工程数も非常に少ない。このため、薄膜太陽電池は量産が成功すると大幅なコストダウンにつながる可能性があり、今後の太陽電池市場の中心になると言われている。

もう一つの理由が、新工場立ち上げを後ろで支える巨大企業の存在だ。半導体・液晶用製造装置の世界最大手、米アプライド・マテリアルズ(AMAT)である。AMATは昨年から太陽電池の製造装置ビジネスに本格参戦し、「サンファブ」と称する薄膜太陽電池用の一貫製造ラインの販売に乗り出した。最新の大型液晶製造装置を応用したもので、畳3・5枚分相当の巨大なガラス基板を使って生産する。モーザーベアPVはその最先端製造ラインを導入した最初の企業の一つであり、それゆえに新ライン立ち上げの成否が注目を集めているのだ。

モーザーベアPVが導入したラインの生産能力は年40メガワットで、装置一式の値段は推計で100億円。新工場は6月から実際にラインを動かして試作を開始しており、AMATは100人近くもの技術者を派遣してライン立ち上げを技術面で全面的にサポートしている。「歩留まりや変換効率等の課題点を完全に解消し、9月以降には実際の商品を出したい」とモーザーベアPVの技術部門トップ、G・ラジスワラン氏。同社では早くも2番目の薄膜太陽電池工場の建設に取りかかっており、再びAMATの一貫製造ラインを導入するという。

AMATはこの1年間で、米シグネットソーラーやスペインのTソーラー、独サンフィルムなど10社前後の企業と契約を締結。その大半が新興の太陽電池メーカーで、モーザーベアPVをはじめとする4社が量産開始を目前に控えている。AMATのソーラー関連事業のマーケティング担当幹部、ジョン・アントン氏によれば、「サンファブの昨年からの累計受注額は、すでに30億ドルに達した」。

半導体・液晶の装置メーカーにとって、液晶技術が応用しやすく、高い成長率が期待できる薄膜太陽電池の製造装置はうまみのある商売だ。国内大手のアルバックも昨年から太陽電池事業を本格化。薄膜用の製造装置を組み合わせたライン丸ごと販売する点はAMATと同様で、昨年6月設立の台湾企業などに納入した。「去年は必死に売り込む立場だったが、今年に入って状況は一変した」(アルバックの砂賀芳雄・専務取締役FPD事業本部長)。現在、同社には中国、台湾などのアジア企業を中心に、海外からの相談や問い合わせが殺到しているという。

「こんなに早く、薄膜(太陽電池)で市販の製造装置が出てくるとは……」。ある国内の業界関係者は驚きを隠さない。

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