「安倍vs岸田」は禅譲か挑戦か、それが問題だ 保守本流のプリンスは、どのように動くのか

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都議選直後の7月3日に旧山東派や谷垣グループの一部を取り込んだ党内第2派閥「志公会」(衆参59)の領袖となった麻生氏はかねてから岸田派も含めた「大宏池会構想」を温めている。「党内の2大勢力による切磋琢磨」(麻生氏)が狙いとされ、麻生氏側近はすでに「実現すれば麻生会長・岸田総裁候補」という具体案を岸田氏に提示したという。

これに対し岸田氏サイドは「麻生氏がキングメーカーを狙っているのは明らか。甘い誘いだが簡単には乗れない」(側近)と慎重だ。岸田氏自身も「派閥合体による数の勝負よりも、他派との連携を重視する」との基本姿勢を変えていない。

「大宏池会」より「大角連合の夢をもう一度」

宏池会の歴史を振り返れば、故大平正芳元首相は故田中角栄元首相との強い信頼関係に基づく「大角連合」で総理総裁の座を勝ち取った。当時の田中派を継承する額賀派は岸田派と同じビルに事務所を置き、両派中堅幹部の交流も盛んだ。どちらも「自民党の保守本流派閥」を自認しており、首相を筆頭とする党内タカ派とは一線を画している。もちろん「当時とは時代が違う」(党長老)との見方もあるが、岸田派内には「大角連合の夢をもう一度」(ベテラン議員)という声は少なくない。

7月29日に還暦を迎える岸田氏はその1週間前の22日に香川県に出向き、故大平元首相の墓参りを計画している。池田内閣の「寛容と忍耐」「正姿勢より低姿勢」というキャッチフレーズをつくった故大平氏が好んで引用したのが「国を治むるは小鮮を烹(い)るが若し」という格言。「小鮮」とは、小魚のことで「小魚を煮るときは、やたら突いたり、かき回したりしてはならない。 政治の要領もこれと同じで、できるだけ政府による上からの介入を控えるべきだ」 という意味で、現在の安倍政権の政治手法とは対照的だ。

岸田氏が墓前で何を誓い、その後の8月人事にどう対応するのか。「一年後のことなど、誰にも分からない」と苦笑する岸田氏だが、これからの半月余の行動が「岸田政権」実現の可否につながることは間違いなさそうだ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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