石原都政に新たな火種 過去最悪の土壌汚染で揺れる築地移転問題

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豊洲に移転すると仲卸は3分の2に縮小

築地市場は今年で開設73年目を迎える。老朽化が激しく、開設時に使っていた船と列車に対応したレイアウトのままだ。トラック輸送では使い勝手が悪く、市場関係者も「今の築地がいいと思っている人はおそらくいない」と不満を漏らす。

過去にも改装計画は浮上した。しかし、工事をしながら市場を運営するのは支障があると業者らが猛反対。建物を解体するとアスベストが出てくるため、生鮮食品への影響も懸念される。このため都は02年に豊洲への移転を決定した。

東京都中央卸売市場の担当者は「豊洲は築地から近く利便性は高い。船便も使える。豊洲以外の候補は考えられない」と力説する。豊洲の敷地面積は築地の1・7倍。鮮魚の加工センターも新設することで、手薄なスーパー向け商材も強化できる。移転は有効と太鼓判を押す。

それでも移転に反対する業者はかなりの数に上る。市場関係者は「移転をきっかけに、3分の1以上の仲卸業者は廃業を迫られる」と断言する。「目利き」と呼ばれる仲卸業者は場内に店を構え、卸売業者から仕入れた魚をスーパーや飲食店に販売する。しかし、在庫リスクを抱えるため経営状況は厳しい。築地の水産物仲卸の45%は債務超過だ。

移転となれば冷蔵庫や水槽など設備投資が必要になるうえ、都に支払う市場使用料も値上げされる。仲卸の廃業は相次いでおり、1989年の1080(水産のみ)から07年は798まで業者数は減少。「移転をきっかけに都は零細仲卸を潰すつもりか」と反発する声は根強い。

都が仲卸組合に便宜? 債務9億円が帳消しに

しかし最近は、仲卸業者間でも意見が割れているという。移転反対派で「市場を考える会」の会長を務める山崎治雄氏は「仲卸組合の『東卸』は、都の言いなりに移転を推進している」と怒りをあらわにする。東卸とは東京魚市場卸協同組合の略称で、仲卸店舗の権利金(のれん代)なども取り仕切っている。

東卸には、都が債務を肩代わりしたとの疑惑もある。05年に農林中央金庫が持つ東卸向け債権9億7500万円を、大和証券SMBCと都が出資する「東京チャレンジファンド」が買い取った。これを東卸が4500万円で買い戻し、差し引き9億3000万円が帳消しになった。東卸は「手続きに沿ったもので問題ない」と説明する。が、一連の取引を参議院財政金融委員会で追及した大塚耕平議員(民主党)は「債務をかぶったのは農林中金か大和証券か、それとも都なのか、明らかでない。債務超過ではない東卸の債務を、なぜ肩代わりする必要があったのか」と問題視する。東卸は否定するが、「都が移転に絡んで便宜を図ったのでは」との声がくすぶる。東卸の会計士が都庁OBとの事実もある。

9月中旬の都議会に向け、都は専門家会議の報告書を基に具体策を検討中だ。豊洲に移転すれば、土地売却益は1兆4000億円に上るとの試算もある。一方で築地市場を改装すると3400億円以上が必要で、都の市場会計は赤字になるという。安全性の確保とコスト抑制を両立させる必要もある。国内最悪の汚染土壌で、本当に「食の安全」は確保できるのか。問題山積みの中、都は移転に向けひた走っている。

(前田佳子 =週刊東洋経済)

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