民法は神棚に飾るものではなく、使うものだ 120年ぶりの改正、その舞台裏を聞いた

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そもそもなぜ、これまで民法は改正されてこなかったか。明治時代に欧州から輸入された民法は、ある種「神格化」され、簡単に手を加えてはいけないという発想があったからだと思います。法典が教典のように祭り上げられてしまい、解釈による運用が行われてきたのです。

弁護士など、法律実務家の多くは改正に消極的でした。実務は解釈でうまく回っている、毎日自分の仕事で手いっぱいなのに条文が変わると一から勉強し直す必要がある、などの理由からです。

やがて、毎年変更するわけではなく120年ぶりに現代化する、という趣旨をご理解いただき、弁護士会も積極的に前向きに提言していく方針へと変わっていきました。特に保証人を保護する規定には弁護士会からの要望が反映されています。

弁護士の中には、自分が相談を受けていた保証人が自殺してしまうという経験をした方が少なからずいて、保証人のハードルを上げるか禁止にしてほしいという切実な思いからの提案でした。

国家戦略として、自国の立法を輸出するべき

(国際化が進展する中で)19世紀的な民法を経済の実態に合うように現代化するのは、世界的な潮流です。フランスやドイツでもEU(欧州連合)の中で契約ルールを共通化する傾向にあります。民法は欧州で生まれた文化なので、欧州から1つの共通基盤が生まれればそれは世界的な潮流となります。それに対し、共通のルールを日本から打ち出そうと言ってきました。

欧米では、立法とは商品であると考えられています。米国、英国、フランス、ドイツなどの国は、自国の立法を海外へ輸出することを戦略として明確に意識している。トラブルが起きた際にも、自分たちの慣れ親しんだルールで処理できれば法務コストを下げることができるからです。

フランスでは19世紀初頭にできた民法が時代遅れになったため、現代化して魅力的な商品へと作り直し、再び海外へ輸出しようという議論がなされていました。日本も、特にアジアをターゲットに、自国の立法を輸出するということを、国家的な経済戦略として考えるべきだと思います。

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