米グーグルが描く「近未来ネット」とは?

スターバックス7000店で無料Wi-Fiなど投資

8月14日、太陽光で稼働する気球を成層圏に送り込むプロジェクトや、公園での無料Wi─Fi接続サービスまで、米グーグルは新たなネットサービスに静かに数億ドルを費やしている。写真は同社のロゴ。トロントで昨年11月撮影(2013年 ロイター/Mark Blinch)

[サンフランシスコ 14日 ロイター] - 太陽光で稼働する気球を成層圏に送り込むプロジェクトや、公園での無料Wi─Fi接続サービスまで、米グーグルは新たなネットサービスに静かに数億ドルを費やしている。そうしたサービスはいつか、電話会社やケーブル会社の脅威になる可能性がある。

グーグルは先に、コーヒーチェーン大手スターバックスの全米7000店舗で無料Wi─Fiサービスを提供する計画を発表。これはいずれ、現在AT&Tが提供するサービスに取って代わることになる。また、ネット接続が困難な遠隔地向けのインターネットサービスを想定し、太陽光を利用した気球30個を南太平洋上の成層圏に飛ばした。

昨年には、ミズーリ州カンザスシティーで秒速1ギガビットの高速インターネットサービス「グーグル・ファイバー」を実験的に開始。同サービスは間もなく、テキサス州オースティンやユタ州プロボでも展開される。複数の関係筋によると、同社はカンザスシティーでの利用者の反応に満足しており、グーグル・ファイバーをさらに複数の都市に広げる可能性もあるという。

グーグルはモバイル端末に流す音楽や動画などのコンテンツを増やすに従い、それに必要な帯域の確保にも投資を増やしている。ファイバーのようなネット接続プロジェクトは、成熟段階にある検索ビジネス以上に売上高成長に寄与するかもしれず、効果的な広告には不可欠であるネット利用者の動向把握にも役立つかもしれない。

一方でアナリストらは、グーグルは従来の得意分野から大きく外れた領域に足を踏み込もうとしており、結果として利益率が犠牲になる恐れがあると指摘する。AT&Tやタイム・ワーナー・ケーブルなど、既存の大手インターネットサービスプロバイダーを真正面から敵に回すことにもなりかねない。

コンテンツプロバイダーは過去、インターネットサービスプロバイダーと衝突を繰り返してきた。動画ストリーミングサービスのネットフリックスは、ケーブル会社コムキャストが自社のコンテンツだけを優遇していると非難した。

インターネットサービスプロバイダーが他社のオンラインサービスをブロックしたり遅くしたりすることを禁じた連邦規制は現在、ベライゾン・コミュニケーションズが裁判所に異議を唱えており、今後どうなるかは分からない。

グーグルでアクセスサービス部門のジェネラルマネジャーを務めるケビン・ロー氏は「ユーザーはもっとスピードを欲しがっている。ウェブ上で可能なことに対する人為的な上限は求めていない」と指摘。同氏は、カンザスシティーでのグーグル・ファイバーに手ごたえを感じているとしたが、同プロジェクトの加入者数や財務的な目標、拡張計画などの詳細については明らかにしなかった。

<ファイバー>

高速ネットワークの構築は、電柱の利用許可の取得で地方当局の協力が必要になるなど、面倒な手続きを伴う。

また複数の業界関係者の話をまとめると、グーグル・ファイバーはまだ規模が小さく、提供されるオンラインサービスも数が限られていることで、電話会社やケーブル会社にとって差し迫った脅威ではなさそうだ。

タイム・ワーナー・ケーブルのロブ・マーカス社長は今年4月、カンザスシティーでのグーグル・ファイバーの加入者数は4000世帯を超えたにすぎないとし、「(自社から)乗り換えた人の数は現時点では取るに足りない」と語っていた。

一方でAT&Tは同じ4月、グーグルと同様の認可が得られれば、テキサス州オースティンで同社も毎秒1ギガビットのネットワークを構築する準備ができていると発表していた。

投資会社セコイア・キャピタルのパートナー、ビル・コグラン氏は「既存プレーヤーたちは(グーグル・ファイバーに)どう応じるべきか答えを見つ出そうとしているのだろう。もし規模が大きくなれば、間違いなく新種の競争相手になるからだ」と語る。同氏はグーグルでエンジニアリング担当の上級副社長を務めていたこともあり、グーグル・ファイバーのプロジェクトにも関わっていた。

今年の売上高が約600億ドルに達するとみられるグーグルの中でファイバーサービスが存在感を高めるには、大規模な展開が必要となる。100万世帯の都市を想定した場合、全体の20%が月額120ドルのグーグル・ファイバーに加入したとしても、売上高は2億8800万ドルにしかならない。全世帯の半数から契約を獲得できても年間売上高は7億2000万ドルだ。

バーンスタインのアナリストCarlos Kirjner氏は、カンザスシティーで30万世帯にファイバーを届くようにするコストは1億7000万ドルと推計。仮に全米2000万世帯に拡大するとすれば、その費用は100億─150億ドルに膨らむとみている。

インターネット接続事業に本格参入すれば、中核のネット事業では40%台半ばを誇るグーグルの営業利益率は、短期的には圧迫されることになる。ケーブル業界の標準的な利益率は30%台半ばだ。

グーグル株を保有するグレーディアント・インベストメンツのポートフォリオマネジャー、マイケル・ビンガー氏は、ファイバーへの現在の投資水準に不満はないとした上で、もし費用のかさむ全米高速ネットワークへの投資などに急速にかじを切るなら、「彼らがどんなビジョンを持ち、どう利益を出そうとしているか詳細を聞かなくてはならないだろう」と語った。

<気球>

540億ドルに上る現金資産を保有するグーグルには、ファイバーや気球などの実験プロジェクトに投資する余力は十分にある。

気球プロジェクトに取り組むのは、眼鏡型端末「グーグル・グラス」や自動運転システムなどの実験的プロジェクトに取り組む「グーグルX(エックス)」と呼ばれる部門。

6月に開始した気球プロジェクトでは、特殊なアンテナを搭載した大きさ12メートルの気球を成層圏に浮かべ、気球同士と地上に設置した機器を接続してワイヤレスネットワークを構築する。最終的な目標は大規模な気球ネットワークを構築することだとしているが、アナリストらはこうしたネットワークの運用には、技術的にも規制面でも課題は多いと指摘する。

また一部の投資家は、こうした実験的プロジェクトはリソースの無駄遣いだと厳しい。ニーダム・アンド・カンパニーのアナリスト、ケリー・ライス氏は「ウォール街には、大きな収益創出が実現しないであろうプロジェクトに投資するのはやめてほしいと考える人たちがいる」と指摘する。

ただ一方で、グーグル独自の高速ネットサービスは、動画共有サイト「ユーチューブ」など同社傘下の他のオンラインサービスには有益だとし、「インフラの環境が整えば出来ることは多い」とも同氏は語る。

ユーチューブは5月、月間視聴時間が60億時間に達したと発表。事情に詳しい関係筋によれば、数年以内に1日10億時間突破を目指しているが、そこに到達するにはネットのスピードが生命線になる。グーグルは、この件に関するコメントを差し控えた。

グーグルの実験的プロジェクトに対し、これまで投資家はおおむね寛容だったが、その背景には、世界のスマートフォンの5分の4に搭載されるまでに成長したモバイル端末向け基本ソフト(OS)「アンドロイド」など、過去に成功したケースがあるからだ。一方で、「グーグルTV」など鳴かず飛ばずの製品もある。

アナリストらは、グーグルはネット接続サービスに乗り出すことで、オンライン上の消費者動向をより正確に把握できるようになり、それが効果的な広告や製品作りに生かされると指摘。調査会社ガートナーのアナリスト、イアン・キーン氏は「ネットワークプロバイダーになってトラフィックをモニターし、人々が何をしているのかを見れば、いち早く情報をキャッチできる」と述べた。

グーグルは、ニューヨークやサンフランシスコなどの都市で、市が管理するWi─Fiネットワークに資金を提供している。スターバックスに提供する無料Wi─Fiサービスでは、現在店舗で使えるWi─Fiの10倍のスピードを実現するとしている。

グーグルがスターバックスとの契約を発表した時、現在のWi─Fi提供者であるAT&Tは、同社もサービスのアップグレードを申し出たとし、今後もスターバックスには各種サービスを提供していくと説明していた。14日時点で、AT&Tからはそれ以上のコメントは得られていない。

グーグルは今後、スターバックスの独自オンラインコンテンツサービス「スターバックス・デジタル・ネットワーク」の新バージョン開発でも協力する。それによってグーグルは、音楽など自社が配信するコンテンツのプロモーションや、ターゲティング広告で有利な立場を得ることになるだろう。

フォレスター・リサーチのアナリスト、チャールズ・ゴルビン氏は「彼らはこうした取り組みをインターネットコミュニティーのためにしているのではない。彼らの目線の先にあるのは、これらの取り組みが作り出す全体像だ」と語っている。

(Alexei Oreskovic記者 翻訳;宮井伸明 編集;伊藤典子)

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