カプコン「不朽の名作」をあえて今語ってみる 「逆転裁判」と縁深い「ゴーストトリック」

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僕自身は当時から「逆転裁判」シリーズが好きだった、DS版の発売時にプレーしている。そして数年前に久しぶりにプレーしたくなってiOS版を買ってプレーし直した。そして改めてしっかりと練られたストーリーによる、驚きと感動を堪能させてもらった。

序盤に謎が深まり、疑惑が生まれる。そして中盤に向けてその謎はさらに強くなる。真実にたどり着いたかと思えば、また新しい謎が現れ、真実は遠ざかる。プレーヤーはモヤモヤを感じたまま、ゲームを進むことになる。しかし、それが終盤に向けてキッチリと伏線が回収されていき、最後の最後にガッチリと収束する。

それはストーリー重視のアドベンチャーゲームとしては当然のことではあるのだが、ソーシャルゲームのように、そもそも終わることを前提にしていないゲームや、オープンワールド系のさまざまなシナリオを寄り道しながらプレーするといった、プレーヤーにストーリーやその解釈を委ねる傾向の強い近頃のゲームに慣れた身としては、制作側から一本の筋の通ったストーリーを提示されるのは懐かしくも新鮮で、制作側の物語に込めた意図をなるべく読み取ろうと、キリッと引き締まるような思いがある。

完成しない世界をプレーヤー自身が作っていくのも楽しいが、完成された世界をプレーヤーがたどっていくのも、また楽しいものである。

巧舟氏が手掛けた「逆転裁判」シリーズがそうであったように、『ゴーストトリック』にも最後の最後に「あーーーーっ!!」となる逆転へとつながる気づきは、もちろん『ゴーストトリック』にもしっかりと存在する。

ゲーム性もピタゴラスイッチ的で楽しく、ストーリーに笑い、疑念を深め、驚き、そして感動できる。『ゴーストトリック』は極めてよくできた作品であると、僕は思っている。

つながることで進んでいく

最後にほんの少しだけストーリーの内容に踏み込ませてもらうと、この作品のテーマは「つながり」なのだと僕は考えている。シセルは死者の世界で近くのものにトリツクことを繰り返す、つまりつながることで移動をする。それは移動のために出てくる電話も同じだ。ゲームシステムがプレーヤーにつなげることを要求しているのである。

ストーリー面では、けんかしていた2人が仲直りをすることで事態が進展したり、かつては仲がよくても今は離れてしまっていると思っていた絆が、実はずっとつながっていたりという展開もある。そしてそれらの各個人の状況がうまくメインのストーリーに結び付いている。このゲームにおいて孤立した人も、孤立したエピソードもほとんど存在しない。

こうして人と人、物語と物語がつながることにより、物語の謎は徐々に解けていく。そしてすべてが終わった後には、さわやかな感動が残る。僕はあまり涙もろいほうではないが、『ゴーストトリック』はプレーするたびに、終盤の展開に涙してしまうほどだ。

赤木 智弘 フリーライター

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あかぎ ともひろ / Tomohiro Akagi

1975年栃木県生まれ。2007年にフリーターとして働きながら『論座』に「『丸山眞男』をひっぱたきたい――31歳、フリーター。希望は、戦争。」を執筆し、話題を呼ぶ。以後、貧困問題などをテーマに執筆。主な著書に『若者を見殺しにする国 私を戦争に向かわせるものは何か』『「当たり前」をひっぱたく 過ちを見過ごさないために』などがある。

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