ビジネスでもいじめ、競争がねじ曲げられる
もちろん、BRICsの旺盛な需要がある。投機マネーが一役も二役も買っている。だが、それだけか。
鉄鉱石の価格は1年で8割上がり、原料炭は3倍になった。根っこにあるのは、供給サイドの“独占”だ。鉄鉱石はバーレ、リオ・ティント、BHPビリトンの3社が世界シェアの8割を握っている。
「競争がない」という状況がいかに経済をむしばむか。目の前の現実が、何よりの教科書のはずだが、ともすれば、「長いものには巻かれよ」に傾斜しがちなのが、日本人だ。
「それではダメ。競争制限がはびこれば、日本はどうしようもなくなる」。言葉に力を込めるのは、大阪の中堅企業・ナイガイ社長の村津敬介氏だ。ナイガイは薬品用アンプルの製造大手だが、大手といってもアンプルの市場規模は限られている。その狭い市場で「競争制限」が猛威を振るった。創業者の父親の後を継いで社長に就任した村津社長は、凄絶な体験をすることになった。
差別値上げ・供給停止
総合商社、外資系銀行でキャリアを積んだ村津社長が家業を継いで驚いたのは、アンプル原料の生地管の供給を業界ぐるみ日本電気硝子1社に頼っていることだった。
1社依存で大丈夫か。村津社長は韓国からの輸入を決断した。立ちはだかったのが、TVコマーシャルでおなじみの、使い捨て医療器具大手・ニプロだった。ニプロは日本電気硝子の生地管について西日本地区の独占販売権を持っている。
村津社長はニプロの佐野実社長にこう申し渡されたという。「一つ、輸入をやめろ。(輸入品との)差額は補填してやろう。二つ、輸入数量を絞れ。三つ、それもできないなら、覚悟がある」(佐野社長は後の公正取引委員会の審判で「輸入方針は正論だと発言した」と主張している)。
その翌年、ニプロはナイガイに対してのみ2割の値上げを通告してきた(公定価格への引き上げ・特別値引きの全廃)。原料が2割上がればナイガイの利益は吹き飛ぶ。第一、これは明らかな独禁法違反ではないか。村津社長は、従来価格のままで支払手形を切り続け、同時に、大阪地裁に「債務不存在」の確認を求める訴訟を起こした。
ニプロが繰り出した第2弾は、実質的な受注拒否・供給停止である。
ナイガイとしては、輸入生地管だけでは数量・品質とも製薬会社の要求に応えられない。しかも、顧客の製薬会社はナイガイの先行きを不安視し、在庫の積み増しを要求してきた。やむなく、増産のためにニプロへの生地管の発注量を拡大。ところが、ニプロは担保を差し入れるか、現金取引に切り替えるか、二者択一をナイガイに迫ってきたのだ。
ただでさえ商圏が細っているナイガイに余分な資金があるわけはない。新たな取引条件を拒むと、ナイガイへの生地管の供給は全面的にストップした。絶体絶命のピンチ。
会社内部からの“反乱”も起こった。ナイガイの古参役員が独立を準備し、「ナイガイは潰れますよ」と業界内外に触れ回ったという。
木の葉が沈み、石が流れる。村津社長は、つくづく、世の不条理を思ったのではないか。
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