不寛容な日本に弾かれた若者を格闘技が救う 前田日明が不良更生のイベントを続ける理由

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黒石は20歳だった08年3月の旗揚げ興行から参加し、15年12月の大会をもって引退した。通算戦績は18戦7勝8敗2分1ノーコンテスト。

「タイマン張ったら日本一強いって思ってたから、自信満々で飛び込んでいきました」

だが黒石の鼻っ柱は見事にへし折られる。デビュー戦から連敗。初勝利は4戦目だった。

「負けてもリングに上がり続けたのは、逃げたくないって気持ちがあったから。それに、前田さんから本格的に格闘技を学べっていわれたのが大きかったです」

黒石の試合はゴング前から殴りかかったり、仲間の乱入があったりと物議を醸すものが多かった。

「でも前田さんは一度もオレを叱らなかった。反対に『練習がんばったな』とか『仲間を大事にしろよ』って、親身な声をかけてもらいました。いつも、本物の父親のようにどっしりと構えて見守ってくださいました」

現在、黒石は俳優業に専念、映画やテレビ、Vシネマを活動の場とするようになった。『グラスホッパー』『テラフォーマーズ』などで、彼の姿を観ることができる。

「前田さんの教えってことなのかな、自分は常に人にやさしくしていたいし、夢を与える存在になるつもりです。前田さんに恩返しするためにも、絶対に俳優で成功します」

前田に黒石のことを伝えると、武骨な表情をふっとゆるめてみせた。

「そんなこといってましたか。でもアウトサイダーにはずいぶんカネと時間を投資しています……ひと財産どころの騒ぎじゃないもんなァ」

理想を求める

とはいえ前田の不良更生計画─―いや世直し事業というべきか─―は、まだ道半ばだ。

「不良に注目が集まっていますが、引きこもりやオタクなんかも、参戦するようになってきました」

次ページ高みにある理想像を引きずり下ろして、何が残った?
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