「バブルに狂った男たち」今だから話せる真実 「バブル紳士の用心棒」が内幕を明かす

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第一不動産の社長だった佐藤行雄氏

佐藤氏は小学校卒業後、生地問屋の小僧や農機具メーカーの販売員などを経て、戦後まもなく不動産業を創業した。バブル期はティファニー本社ビルやハワイ・ワイキキ海岸の土地買収で有名になる。事業家として評価するのは佐藤氏が不動産担保ローンの草分け的存在であるからだ。 

「担保の不動産さえあればいい、借りる会社の事業計画などは問題にしない、と割り切ったのが不動産担保ローン。それを堂々と最初に始めた先駆者が佐藤さん。第一不動産は土地転がしもやったが、単なるバブリストではなかった」。

「最後のフィクサー」、脅しとたらしの「仕手の親玉」

河合弁護士はバブル期の「怪人」たちとも親交が深かった。その一人が國重惇史氏(元住友銀行取締役)の著わした『住友銀行秘史』にも登場する川崎定徳の佐藤茂氏(1994年没)だ。

川崎定徳の社長だった佐藤茂氏

佐藤氏は元国鉄職員。常陽銀行や千葉合同銀行(千葉銀行の前身)などをかつて傘下に抱えていた旧川崎財閥の財産管理会社である川崎定徳に入社し、1966年に社長となった。大型経済事件でたびたび名前が登場し、表の社会と裏の人脈をつなぐ「最後のフィクサー」と呼ばれた。左手の小指がなかったとされる。

佐藤氏は柔道の腕もかなりのものだったというので、「大親分」のようなイメージを抱いてしまう。ただ実物は「がっちりしているが、中背でそう大きくない。大親分という感じではない」という。「貫禄があって物静かな人。この人が凄んだらすごいだろうなとは思った。そういう場面を見たことはないけど」。

佐藤氏を一言で表現するのはどうも難しいようだ。河合弁護士は言葉を選ぶ。

「柔和な人だけど、洗練されたジェントルマンという感じではなく……気骨のある中小企業の経営者みたいな。それも違うな。まあ、やくざの親分だといってそう見えないこともない。見る側の人によって、いろいろ異なる印象の人だったのかもしれない」。

そしてこう述べた。「信頼のおける人柄だった。逆に言うと頼られると断れないタイプだったのではないかな」。

さまざまな人物と交流してきた河合弁護士が、バブル期の人物で「もっとも強烈」なタイプとして挙げるのは仕手集団・光進の代表だった小谷光浩氏だ。

小谷光浩氏は株の買い占めで名を馳せた

バブル期は仕手と呼ばれる投資家が買い集めた株を高値で企業側に買い取らせる動きが目立った。大和証券勤務を経て独立後の70年に小谷氏が設立した光進(当時はコーリン産業)は仕手の代表的な存在だ。有名な事件の一つが国際航業の株買い占めとその乗っ取りで、敵対的M&A(企業の合併・買収)の日本における初の事例とされる。このとき河合弁護士は光進側の弁護士として法的サポートをした。

「乗っ取りに成功したときに見せたのは『ガハハ』という破顔一笑。ところが後で言い合いになって、あのガラス玉のような目でギラッとにらみつけられた。破顔一笑との落差が大きかった。多分あの表情は一生忘れない」。

発言に出てくる「言い合いになって」とは、国際航業の経営権を手中に収めた直後に小谷氏が同社から40億円を無担保で借りたことを知って、すぐに返済を求めたときのことだ。河合弁護士が何とか返済させたが、小谷氏は借りたが最後、返す気などなかったのだとみている。

「脅しとたらしというか、非常にアグレッシブな面と柔和さを使い分けていた。最後の決別を除けば僕にはいい依頼者だったよ。金払いがよかったし」。これが小谷氏評だ。

河合弁護士は話の最後をこう締めくくった。

「得意の絶頂から奈落の底へと墜ちていった人を見たことで人生観が変わった。バブリストはあの世までカネを持って行けるとでも思っているかのようにカネに執着した拝金主義者だった。今の僕のモットーは『いかなる富もあの世にはもち込めない』。こういう考えになったから反原発運動をやっている。バブリストたちがそういう考えに至らせてくれた」。

5月20日号(5月15日発売)の週刊東洋経済『最後の証言 バブル全史』では、秀和の小林氏と真の意味で「戦友」だったライフコーポレーション会長の清水信次氏、第一不動産の佐藤氏を河合弁護士に紹介したエス・サイエンス会長の品田守敏氏、小谷氏を銀行顧客に紹介したことで罪に問われた住友銀行元支店長(『住友銀行秘史』の「Y」氏)も、証言者として実名で登場する。

彼らの証言から学べるものは何かしらあるはずだ。

緒方 欽一 東洋経済 記者

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おがた きんいち / Kinichi Ogata

「東洋経済ニュース編集部」の編集者兼記者。消費者金融業界の業界紙、『週刊エコノミスト』編集部を経て現職。「危ない金融商品」や「危うい投資」といったテーマを継続的に取材。好物はお好み焼きと丸ぼうろとなし。

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