マクロンとルペンは「防衛政策」に大差がある フランスを「守れる」のはどちらの候補か

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ルペン氏とマクロン氏を比べると、マクロン氏は防衛やセキュリティ問題を全体の政策の中で特に優先的課題としていないことがうかがえるが、ルペン氏の「国防予算を5年間でGDP3%まで上げる」という案は、現在のフランスの厳しい経済状況において現実的とは言えない。

もっとも、今回の大統領選では、防衛・セキュリティ問題に関する議論は多くなかった。イスラム過激派テロの台頭を背景に、ルペン氏とフィヨン氏は積極的にフランスが直面している危機に対抗する姿勢を見せていたが、1月にはフィヨン氏のスキャンダル事件が発覚、昨年11月の共和党予備選挙で選ばれ有力候補であった同氏は大きなダメージを受けた。

その後は、メディアでも選挙に関する話題がスキャンダル事件へ集中する中、フィヨン氏は辞退することなく選挙活動を続けたが、人々の関心は次々とマクロン氏へ集中。投票意向を示す統計でトップだったルペン氏とともに決選投票へ進出した。

4月20日にシャンゼリゼ通りで起きた警察官殺害テロ事件後には、有権者がセキュリティに関して敏感になり、選挙に影響するのではないか、という見方もあったが、結果として大きな影響はなかった。

マクロン優勢だが、勝っても前途多難

5月1日付のOpinionWay-ORPIの予想によると、マクロン氏61%対ルペン氏39%で、決選で有力なのはマクロン氏と見られているが、浮動票、白紙投票及び棄権票の行方にもより、予断を許さぬ状況になっていることも確かである。もしマクロン氏が勝っても、その後6月11日と18日に控えている国民議会選挙で、「前進」が過半数を取るのは難しいとされる。

しかし、マクロン氏は29日のフィガロ紙のインタビューで、「共和党や社会党との連立はない」と述べている。そして、現在のフランスの政界が、FN、社会民主主義から社会的ド・ゴール主義を含む進歩派の前進、そして抗議的政治運動であるFrance Insoumise(服従しないフランス)の3つの動きにより構成される方向へ向かっていることや、今までの2大政党である共和党と社会党は分裂した状態であることを説明している。

大統領選が終わっても今後のフランス政界は再構成されていくと見られ、不安定な時期が続きまだまだ目が離せない状態だといえるだろう。

吉田 彩子 S.Y.International代表

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よしださいこ / Saiko Yoshida

神奈川県生まれ、在仏30年。パリカトリック学院社会経済学部にて地政学・国際関係修士課程1終了後、スケマビジネススクールにてエコノミックインテリジェンス・ナレッジマネジメント修士号取得。安全保障・司法高等国立研究所(INHESJ)にて安全保障・エコノミックインテリジェンス課程修了。2009年にS.Y.Internationalを設立。日本・フランス・アフリカ諸国を中心に戦略立案から実行サポートを含めた海外事業展開支援、リスク・危機管理コンサルティングを行なう。

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