新日鉄住金「技術流出」訴訟が示した危機意識 関与した元従業員「個人」を訴えた意味
大手鉄鋼メーカー「新日鉄住金」の特殊な製品の製造技術が、韓国の鉄鋼メーカー「ポスコ」に流出したとして、新日鉄住金が元従業員に不正競争防止法違反に当たるとして、損害賠償や製品の販売差し止めなどを求めていた裁判で、元従業員側が解決金を支払い、和解が成立した。
NHKの報道(4月18日)によれば、ポスコ側が300億円を支払うことで2015年、ポストと和解が成立したが、その後も約10人の元従業員側に対する責任追及は続いていた。昨年末までに全員との和解が成立し、元従業員は謝罪。解決金を支払った。会社側は3月末、訴訟を取り下げたと日本経済新聞電子版(4月18日)は報じている。
企業の知的財産に詳しい弁護士は今回の和解成立の意義について、どのように評価しているのだろうか。遠藤誠弁護士に聞いた。
複数あった韓国企業と日本企業との法的紛争
「新日鉄住金が、技術流出に関わった元従業員への責任追及の手をゆるめず、最終的に、謝罪と高額の解決金の支払いを約束させたことを、高く評価したいと思います。
いくつかの韓国企業は、近年、日本企業が有する技術情報の流出に関与し、法的紛争を引き起こしました。例えば、今回の新日鐵の事案の他にも、東芝の有するフラッシュメモリー製造技術が韓国のSKハイニックスに不正に流出した事案など、憂慮すべき重大事案が複数発生してきました。
これまでは、日本企業が技術の流出に関して訴訟を提起する場合、企業を相手方として提訴するのが一般的でした。しかし、企業を相手方として提訴し、勝訴したとしても、情報漏えいに関わった元従業員はあまり痛みを感じない可能性があります。
そこで、今回のように、情報漏えいに関わった元従業員自身を相手方として提訴し、謝罪と高額の和解解決金の支払いを認めさせたことは、他の元従業員や現職の従業員にも、技術情報の重要性や秘密保持責任の厳格さを再認識させることになり、将来の情報漏えいの防止につながると期待されます」