日本から先端軍事技術が流出しかねない理由 大学は「安全保障貿易管理」を直視すべきだ

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印東氏が事務所を構える愛知県は航空宇宙分野が次世代産業として活気づく半面、輸出に関する懸念を抱く企業は少なくない。同氏はそうした企業からの相談に応じて、貨物や技術情報を海外に持ち出す際の許可手続きなどを指南する。先端技術を扱うという点では理工系の研究機関も同じはずだが、大学の場合は意外なところにもリスクが潜んでいるという。

「博物館の分析計は地質サンプルの年代特定などに使われるのだろうが、プルトニウムなど核燃料物質の組成分析にも用いられるとして輸出が規制されている。軍事用途としてはウラン、プルトニウムなどの同位体組成の分析でも使われることがあり、大学の幅広い研究活動が安全保障と無関係ではないことを示すものだ」と印東氏は指摘する。

リストに挙げられている機材やスーパーコンピュータのマニュアルなど計8件は、2010年度から2016年度にかけて、外為法の規制品に該当するとして大学側が経済産業省に届け出たものだ。大学としてはチェック機能を働かせ、輸出許可を得た成果だといえるはずだが、大学当局は「この取り組みについて、大学としてどう一般に広報したらよいか、まだ方針が定まっていない」として正式な取材には応じず、個々の研究室などへの取材にも協力をしてもらえなかった。

この制度は複雑でデリケートな問題が多く、関係者は一様に口が重い。ようやく取材に応じてくれた別の国立大学の航空宇宙分野の研究者は「われわれの分野ならほとんどすべてのものが規制にひっかかるものだとは思っている。もちろん、規制にかかることと、実際に兵器になることとは別問題だと思うが……」と困惑をにじませた。

ターゲットは企業から大学へ

安全保障貿易管理は東西冷戦の時代から、大量破壊兵器などに軍事転用な貨物、技術を拡散させないために各国が強調して設けている制度だ。

国際的な輸出管理の枠組み(国際輸出管理レジーム)は1978年の原子力供給国グループ(NSG)の立ち上げを契機として段階的に整備されてきた。1996年にはテロ対策の一環で通常兵器に関する技術も対象にした「ワッセナー・アレンジメント」が発足。日本も参加41カ国の1つとなり、輸出管理を強化している。

冒頭のように原子力や生物・化学兵器、ミサイルなどに転用されうる機械や素材を輸出するときは、政省令で定めるリストと照らし合わせ(該非判定)、該当すれば経産大臣の許可を得なければならない。リスト規制品目以外でも、特定の国に向けた輸出品が大量破壊兵器に用いられるおそれがあるなどとわかれば、事前に大臣の許可が必要だ(キャッチオール規制)。海外へのモノの輸出だけでなく、データなどの技術提供(役務取引)は日本国内での取引行為も対象になる。これらに違反すれば10年以下の懲役、または1000万円以下の罰金などの厳しい刑事罰が科される。

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