先のドミナント戦略には裏話がある。辻田氏曰(いわ)く、「空きテナントが出たときに、他のラーメン店に来られるのが嫌なので……。他のお店が出てきて売り上げに影響が出るぐらいなら、自分のお店を出して新しいラーメンを作りたいと思って始めました」。もともとは弱気な気持ちから始まったのだ。この事例は他店にも参考になるかもしれない。
愛情を持って接してほしい
そんな辻田氏が、店舗運営において最も重視しているのが、丁寧な接客を徹底的にたたき込む従業員教育だ。
「セントラルキッチンでスープを取るなど、味の面はある程度技術でカバーできますが、最後は人です。厨房のスタッフが男性であれば、『お客さんは自分の彼女のお父さんだと思って出しなさい』と教育しています。ホールの女性スタッフなら、『お客さんは自分の彼氏のお母さんだと思って接客しなさい』と。要は愛情を持って接してほしいということなんですが、わかりやすくいつもそう伝えています」(辻田氏)
一見単純そうに見えるが、毎度それを心に留めて接客するのは、口で言うほど簡単でもない。私も先日、麴町店で行列に並んでいるとき、ホールの女性スタッフから温かいお茶をいただき、驚いた。これはマニュアルに沿ったことではなく、各スタッフの心配りのもと行われている。
有名なラーメンチェーンの中には、売り上げや客数を重視する企業が多い。精神論と言われればそれまでかもしれないが、「つじ田」の強さの秘訣が従業員の気持ちを鍛えることであるのも「特異」といっていいだろう。
課題はこの今の「つじ田」クオリティを各店で維持・向上していけるかだ。「自分自身ではこれ以上出店を増やしていこうとは考えていません。ですが、従業員にいい生活をしていってもらうために会社を伸ばしていきたいですね」(辻田氏)。創業者である辻田氏が目配りできるネットワークには限界があり、辻田氏自身も「自分でできる許容範囲ははるかに超えている」と語る。「辻田マインド」を持った後継者づくりも将来を見据えれば課題の1つになってくるだろう。
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