受動喫煙問題解決には政治的な決断が必要だ 飲食店の禁煙問題、専門家が訴える

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――吸う人は、室内で吸えなくなると外に追い出されるため、みんなが外で吸うようになるとも主張します。

外で吸えばいいんですよ。外で吸って室内に戻って来ればいいと思うんです。曝露量から見ると、はるかに室内で吸われる方が多いです。居酒屋みたいに喫煙者がたくさん集まるところで働く、たばこを吸わない従業員の曝露は健康を守る観点から看過できません。

外なら、ちょっと違う道を歩くとかして個人的に避けられるじゃないですか。でも、居酒屋の従業員はその仕事を辞めないと避けられません。いい職場に移れたらいいけど、うまくいかないかもしれません。居酒屋では大学生や高校生もバイトをしています。バイト代を稼ぎたいから煙を我慢してしまいます。

日本では高齢化が進み、介護費用や医療費をもっと節約しないといけない時代です。その時代に喫煙は今なお一番多くの人たちが死んでるトップの要因なんです。年間13万人が、受動喫煙者も入れると14万人が亡くなっています。認知症の発症にも喫煙の影響が明らかなので、たばこは要介護を引き起こす重要な要因でもあり、健康寿命を短くする最大の要因です。そう考えると、受動喫煙対策を少しだけ進めるのではなくて、たばこも大幅に値上げするなど、喫煙率を減らす効果的なたばこ対策を組み合わる「タバコミクス」をやった方がいいんですよ。

本当に国民の健康や医療制度を守ろうと思ったら、たばこ対策を進めないといけないんです。脳卒中と受動喫煙の関連がはっきりしており、脳卒中になると寝たきりや要介護になってしまいます。吸っていないのに、そんな悲劇もありうるわけです。それを政治家はどう考えるんでしょうか。世論では、6〜7割の国民は厚労省の改正案などの規制強化に賛成しているのです。

どうしても吸いたい人は場所をわきまえて吸えばいい

――喫煙者は「たばこ吸う人の権利はどうなるんだ」とか「マイノリティをないがしろにするのか」と主張したりします。

喫煙権は、他人の健康に危害を及ぼさない範囲で認められる権利で、「愚行権」といわれています。どうしても吸いたい人は場所をわきまえて吸えばいいけれど、「他者危害性」のあるものを排出していることを常に考えて吸うべきです。

たばこの健康影響や対策についての基本的な考えや常識のようなものが、まだ国民の間で十分認識されていないのが現状です。だから、多くの人たちが利害や利得を含めてそれぞれ好きなこと言って、たばこ規制枠組み条約の締約国として本来あるべき方向に議論が収斂しないのだと思います。そこの状況を大きく変えていかなければなりませんが、そのためには政治的なリーダーシップが重要だと思います。

取材に答える「地域医療振興協会」の中村正和・ヘルスプロモーション研究センター長=東京都千代田区(写真:Wataru Nakano)

(文:中野 渉)

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