受動喫煙問題解決には政治的な決断が必要だ 飲食店の禁煙問題、専門家が訴える

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――飲食店が屋内禁煙にしたら、店が簡単に潰れるんでしょうか。

たばこ産業から資金が提供された研究では売り上げが減ると結論付けた報告はあります。しかし、中立的な立場で実施された科学研究ではそのような結論は得られていません。たばこが吸えること以外に魅力がなく、喫煙場所にしかなっていなかったような店は確かに厳しいかもしれません。でも他に、例えば店主との会話が楽しめるとか、食べものでなくても何か魅力があればやっていけるはずなんです。

さらに、そこで働いている労働者の健康が大切です。健康と、経済的利益のどちらを重視するのかという話です。私たちは受動喫煙の問題を「他者危害性」という言葉を使って伝えようとしているんですが、受動喫煙というと、匂いははた迷惑だけれども害が実感として湧きにくいですよね。特に日本の場合は認識が低いので、大変な健康問題だと知ってもらうために「他者危害」という言葉を使っています。「健康影響」だと、ちょっと緩いですから。

――最近はレストランでもコーヒーショップでも分煙スペースを設けているところが増えていますが、中村さんの考えとしては意味がないのでしょうか。

いや、それは自由に吸えるよりはずっとマシです。空間だけ仕切るよりは、喫煙専用室をつくって外に排気するのですから、だいぶ曝露量を減らせますよ。ただし喫煙専用室を設けても、屋内に煙が漏れるし、従業員や掃除をする人はそこに立ち入らないといけないですよね。

厚労省案について「規制が厳しい」という業界の反発の一方で、規制が十分でないという意見が出てくるのは十分に予想されました。でも初めから、1番理想のレベルを目指すと現状よりも進まなくなってしまいます。海外でも、アメリカでは州政府によって違いがあり、規制が進んでいる州でも段階的に進んできました。例えばバーは、最後に禁煙化されていきます。だから日本では、罰則を付けて、飲食店などで喫煙室を認めるという例外があっても現在よりも進んだことになるので、いいと思ったんです。全部禁煙というのは現状ではちょっと無理でしょう。

厚生労働科学研究費補助金「たばこ対策の健康影響および経済影響の包括的評価に関する研究」(研究代表者 片野田耕太) 厚生労働科学研究費補助金「受動喫煙防止等のたばこ対策の推進に関する研究」(研究代表者 中村正和)

たばこ関連産業との付き合いは票に繋がる

――厚労省案に反発している議員の中には、結構有力な人もいます。

そうなんです、まだまだ自民党の上の世代で喫煙者が多いし、献金を含めてたばこ関連産業との関係がある有力議員さんもいるからです。たばこ関連産業との付き合いは選挙の票に繋がります。一方、たばこを吸わない人の票は読めないと言われます。選挙モードになると禁煙推進議連も波風が立たないように休眠状態に入ると聞いています。

――さっき触れた禁煙キャンペーンについては、マスコミはまだ満足な伝え方をしていないと感じているんですね。

それに加えて、今は格差の問題が出ています。低所得の人ほど喫煙率が高いんです。特に生活保護を受けている人は喫煙率が圧倒的に高い。また学歴をみると中卒や高卒、さらに中退した人たちがかなり高いです。国内では喫煙者の割合は2割程度にまで下がって先進国並になってきたのですが、日本は高齢化が進んでるから、年齢調整をすると、先進国と比べてやっぱり喫煙率は高いままなんですよ。

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