アディーレの不適切業務めぐる「処分」の重み 懲戒の段階によって影響は断然変わってくる

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2016年の統計では全懲戒事案114件のうち、60件が戒告処分、47件が業務停止、3件が退会命令、4件が除名処分となっています。この中でおよそ半数を占める「戒告」処分は不名誉な記録が残り、一定の制限を受けることがあるものの、業務そのものが大打撃を受ける程の効果はありません。一般的に戒告レベルの事件は報道されないことも多いため、多くの読者の方にとってはイメージしにくい懲戒処分かもしれません。

業務停止となった場合

それより重い「業務停止」については、たとえ1カ月という短いものでも弁護士法人にとっては大打撃となりかねません。

弁護士・弁護士法人は業務停止期間中、一切の弁護士業務ができません。それは「すでに受けて裁判を行っている事件」でも「顧問契約」でも同じです。

となると、業務停止処分を受けた弁護士は、いったんすべての事件、すべての顧問業務について辞任しなくてはならないのです。これは個人で営業を行っている弁護士でも場合により100件近い事件について別の弁護士を探して引き継ぎを行わねばならず、大変な業務となります。

それに加え、本件は百数十人の弁護士を擁する日本屈指の大事務所であるところ、法人の業務が停止されれば法人名で受任している業務をすべて辞任しなければなりません。これは想像を絶する手間と時間を要することになりそうです。

この点について、「業務停止期間中、事務所の中で懲戒を受けていない弁護士が新事務所を立ち上げ、その新しい事務所が暫定的にすべての事件を引き継ぐ」という応急処置で対応するケースで業務が滞ることは防げる、という実例もあるようですが、上記の混乱をすべて回避することは難しいでしょう。

では業務停止が明けた後は前と同じ状態に戻れるのかというと、これも簡単な問題ではありません。業務停止を受けたことに不信感を持ち、弁護士を解任する依頼者や顧問先もいるでしょう。莫大な金額がかかっているといわれる広告費について、集客できない期間が挟まることは資金繰りの点からしても危険です。融資の継続においてもマイナス要因になるでしょう。タイミングと長さ次第では業務停止が事実上事務所を倒産させ、結果多くの依頼者を混乱させるということも十分ありえます。

今回の件はどの程度重い処分になるのでしょうか。確かに、法律事務所が消費者庁から行政処分を受けたことは業界にとっても驚きで、多くの弁護士を擁しながら数年間問題のある状況を続け、ここに至ったことは問題が大きいとも言えます。高い倫理性を要求される法律事務所が行政処分を受けた、という未曾有の事態であることを重く見るなら処分は重くなると言えそうです。

ただ、本件は倫理上の問題はあっても、実際に着手金は取っていないわけで、深刻な被害を受けた人がいるケースと比較し、あまり重く罰するのはどうかという意見もあります。

次ページ「戒告」で済むのか、「業務停止」か?
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