AIの雇用破壊は資本主義の「禁断の果実」だ 人間の創り出したものが人間に牙をむく日

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キャリアを確立し十分なおカネを得たあとに、人は何を達成できるのか?(写真提供:NHK)
私たちの働き方はこれからどうなるのか、資本主義はどこへ向かっているのか、そもそもおカネとは何なのか――。気鋭の若手経済学者・安田洋祐大阪大学准教授が世界のトップランナーとの対話を通じて、資本主義の本質に迫った番組が、NHK「欲望の資本主義」だ。今回、番組の未放送インタビューも多数収録した書籍『欲望の資本主義』が刊行されたので、本書の一部を抜粋してお届けする。

産業革命で人は生きる意味を見失った

新刊『欲望の資本主義』の関連番組「欲望の資本主義2017」はNHKのBS1で4月21日(金)午前9:00~10:50に再放映予定。「欲望の民主主義」は4月23日(日)午後10:00~11:50に放映予定(書影をクリックするとアマゾンのページにジャンプします)

安田:産業革命、あるいは工業化によって労働は変わりましたよね?

セドラチェク:ええ。人は自分自身のために働くことをやめて、「仕事に行く」ようになった。そして「余暇」を取るようになった。以前は仕事と余暇は切り離されていませんでした。

これは工業化を象徴する現象です。変化をもたらしたのは資本主義ではなく、工業化や都市化です。ロシアやチェコなどの共産主義国でも同じ現象が起きましたからね。資本主義とは関係なく、工業化による変化だと言えます。

そして、この変化によって人々は生きる意味を見失いました。本来、仕事は人生に意味を与えるものです。1日8時間以上働く人ならなおさらです。だから、単純な分業は、実際に行うと精神的につらい。現在、家族経営の小さな会社や手作りの製品への回帰が一部で広がっているのも、そんな理由からかもしれません。

有名な寓話があります。お金持ちの西洋人が、釣りをしている貧しい男に近づき、何をしているのか尋ねます。男が「釣りだ」と答えると、お金持ちは、「網を買って事業にすべきだ。そうすれば人を雇って魚を取ることもできるぞ」と提案する。「何のために?」。男が聞くと、お金持ちは「仕事を引退してから釣りを楽しむためさ」と答える。つまり、男は最初から幸せなんです。

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