「3万年前の航海」をどうやって再現したのか 国立科学博物館のひみつ

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成毛眞氏(左)、海部陽介氏(右) (写真:国立科学博物館提供)

成毛:黒曜石という明らかな目的があるならわからなくもないですが、沖縄へ渡るモチベーションは何だったのかなあ。

海部:そうですね。それは一連の実験を終えてから改めて考えたい課題ですね。

成毛:たとえば伝説を信じたりして、本当にあるかわからない島を目指すものでしょうか。

海部:出航を決断するには、せめて、そこに島があることはわかっていたというロジックが必要ですね。台湾から与那国島が見えるか今調査していますが、少なくとも宮古島から沖縄本島は見えません。

成毛:ではどんなシナリオが考えられますか。

海部:たとえば、渡り鳥の行き来から、向こうに陸があると推測できる可能性があります。あるいは、少しずつ航海距離を延ばしながら徐々に存在を理解したという仮説も立てられます。

水筒の発明によって、行動範囲が広がった

成毛:長距離航海になると、飲み水の確保が必要ですよね。

海部:今でもアフリカではダチョウの卵の殻を水筒代わりに使うところがありますし、竹やヒョウタンのようなものを使っていたかもしれません。ただ、これには証拠がありません。

成毛:でもいずれにしても自然物ですね。

海部:水筒の発明は、人間にとって革命です。水筒があれば水源から離れられるので、他の動物とは比べものにならないほど行動範囲が広がります。ラクダのように水をためられる体の構造になっていれば話は別ですが、人間はそこを発明によって解決してきました。

成毛:船もまさにそうですよね。

海部:漂流ではなく意図があったと考えるもう1つの理由は、漂流でたとえば男性ばかりがたどり着いたとしても、子孫を残せないからです。男女1組でも定着は難しい。

成毛:なるほど。

海部:今回も移住を想定して、草舟を2艘用意しました。

草舟に乗ったこぎ手たち(写真:国立科学博物館提供)
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