試練の年迎える欧州、「崩壊」は避けられるか 実態はそれほど悪くないが…

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問題は、こうした「話」がどこまで現実になるかということだ。欧州の各機関は、崩壊の危機が足音を立ててやってきていることを感じ取っているが、それでもそれぞれが何とか耐え忍んでいる。EUや北大西洋条約機構(NATO)、単一通貨といったさまざまな欧州の機関やプロジェクト、各国を統治する政治機関・組織さえ、圧力を受けており、不十分な状態にある。しかし、これらのプロジェクトや機関は、過去60年間にわたって、欧州地域の平和維持に貢献し、この地域の人々の人権を守り、福祉を提供している。

欧州の自由民主主義は、偽善的であることもよくあり、無効となっていることもときにある。しかし、全般的に見れば、EU加盟国の国民は、国家権力による行き過ぎた行為など「悪い行い」からはここ数十年間守られてきた。これは1930年代のファシスト体制や、冷戦期間、ソビエト独裁体制は言うまでもなく、今のプーチン統治下のロシアでもありえないことだ。

欧州は確実に「不親切」になっている

セルビアのようなEUと隣り合う国々の国境で多くの難民たちが感じているように、欧州は確実に「不親切」になりつつある。とりわけ、自分たちとは「異なる」欧州以外の国々や、欧州内の移民コミュニティに対してそうなっている。

今後、事態がどうなっていくか予想することは困難だ。少なくとも欧州の統合機関は希望を捨てていないが、各国が、それぞれが抱える問題の解決に挑むことを責めることはできない。エコノミスト誌は3月上旬、ドイツが将来の不安打破に向けて、自国を防衛するために核兵器プログラムを開始する意思があるかどうかを問いかける記事を掲載した。

とはいえ、欧州は事態が見かけほど悪くないことに気付き、楽観的な将来像を描く必要がある。さもなければ、多くが考えている以上に、事態がさらに悪化する可能性もある。

著者のピーター・アップス氏はロイターのグローバル問題のコラムニスト。このコラムは同氏個人の見解に基づいている。
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