小池都知事、「安全だが安心ではない」の欺瞞 「情」に乗じて扇動する手法には限界がある

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非科学的で、論理性に欠いていると批判される言動も、彼女の中の「確信」に基づくものと見えるからだ。それは人間の本能的欲求に対する彼女なりの洞察、もしくは直感といっていい。

その洞察とはたとえば、(1)人はロジックではなく、エモーション(感情)で決断をする、(2)人は基本的に変化を恐れる、(3)人は「制裁」欲求を持つ生き物である、といったようなものだ。人のこうした根源的欲求を理解したうえで、あえて大胆な「賭け」に出ているのではないかと思えるのだ。

人はエモーションで決断する

1つ目の「人はロジックではなく、エモーションで決断をする」。これはまさに、小池知事の「安全であっても安心ではない」という言葉の裏側にあるものだ。すなわち、人の決断は、客観的事実(ロジック)である「安全」ではなく、主観的感情(エモーション)である「安心」によってより大きく影響を受ける、ということを指している。卑近な例でいえば、いかに健康に悪いとわかっていても、辞められないたばこ、なかなかできないダイエット、などもこれにあたる。頭ではわかっている。ただ、体や心がついていかない、そういう経験は皆さんもたくさんお持ちだろう。

これは、脳科学の視点からも実証されている。脳に障害があり、ロジカル(論理的)な判断はできても、感情を感じられない患者は、決断そのものができないことがわかったのだ。

アメリカのトランプ大統領の劇的勝利も、怒りや恐怖という感情が有権者を駆り立て、決断へ導いたことが原動力となった。エビデンスやデータをそろえ、ロジックをどんなに積み上げても、人を説得できないということはよくある。

人間の意思決定メカニズムに徹底的に迫った、ノーベル経済学者、ダニエル・カーネマンによれば、人の脳の中には「非常に高速で直感的に物事を判断するシステム1」と「合理的な判断をするがスピードのゆっくりしたシステム2」があるが、人はシステム1に頼った直感的・感情的判断をしがちである、と指摘している。つまり、合理的・論理的決断よりはエモーションに基づいた直感的決断が勝ることが多いということだ。

だから、盛り土をしていなかった、有害物質が〇〇倍、といったファクトに対し、合理的な分析や評価をするよりは、直感的にリスクを絶対化し、極度に不安視してしまう傾向があるということだ。農薬などの化学物質や遺伝子組み換え作物、予防接種、さらには地球温暖化まで、科学的に実証されたものであっても、その安全性や妥当性に疑義を唱える人はなくならないのもこうした脳の特質が関連している。

2つ目のポイントは「人は基本的に変化を恐れる」ということだ。「築地市場は現に営業を行っている。多くの市場関係者が胸を張って日々働いていて、築地市場は法令上安全で、都民の絶大な信頼を得ているという2つの意味において安全・安心だと思う」「(築地は)現に今日も営業している。消費者の安心の証明だ」「商売をやっておられる方々には、その辺のところを、いちばん、最近の流れからいっても、気を使われるところなのだろうと思います。ましてや、生鮮食料品を扱う市場だということがポイントだと思っております」。

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