“鶴の一声”で前進、排出権取引の実現へ…環境省、経済産業省が妥協したウラ

“鶴の一声”で前進、排出権取引の実現へ…環境省、経済産業省が妥協したウラ

「いつまでも制度の問題点を洗い出すのに時間と労力を費やすのではなく、むしろ、より効果的なルールを提案するくらいの積極的な姿勢に転ずるべきだ」

日本に排出権取引市場をつくることの是非については、環境省や環境NGOなどの推進派と、経済産業省と財界など反対派の論争が長らく続いてきた。それを打ち切って、今年秋からの実験導入を決めたのが冒頭の、福田首相による鶴の一声である。

福田首相は6月9日に、地球温暖化に関する「福田ビジョン」を自ら発表。2050年までに世界前提のCO2排出の半減を目指すことを前提に、日本も排出量を60~80%削減する長期目標を打ち出した。「国全体を低炭素化へ向けて動かすための仕組み」として福田首相が挙げたのが排出権取引の試行的実施だ。

「排出削減の実際の担い手は民間。CO2に取引価格をつけ、市場メカニズムをフルに活用し、技術開発や削減努力を誘導していく」(福田首相)というのが導入の狙い。いわば、価格づけによってCO2排出のコストを「見える化」させるわけだ。

これを受け、6月26日には環境省と経産省はそれぞれが所管する審議会で、国内排出権取引制度の素案を提示した。今後は調整を経て、政府が7月に策定する温暖化対策の行動計画に最終的な制度案が盛り込まれることになる。

今秋からの実験導入へ 制度案急きょまとまる

両省の案は、これまでの主張の隔たりを思えば驚くほどに接近した内容だ。

環境省の案は、同省が05年から導入している自主参加型の排出権取引制度をベースにしたものだ。企業が省エネ設備を導入するための補助金を受け取る代わりに、温室効果ガスの削減目標を約束。その数値が達成できなかった場合は、不足分をこの制度に参加している他社から購入するという仕組みだ。

自主参加型制度には累計で233社が参加してきたが、今回の案では、より参加者を増やすため、日本経団連の下での自主行動計画に参加する企業も合流できるようにした。

経産省は13年からの「ポスト京都」期間に想定される排出権市場本格導入については、なお慎重な姿勢を崩していない。一方で、今年秋からの試行的実施では、個々の企業が原単位の改善、または総量削減の目標を自主的に設定するという仕組みを提案した。

この案で取引の対象とされているのは、【1】途上国でのクリーン開発メカニズム(CDM)事業実施で取得した排出枠、【2】大企業が中小企業の排出削減支援を行う「国内CDM」によって創出された排出枠、【3】自主設定した目標をクリアした企業が第三者機関の認証を受けて取得する排出枠の三つだ。

両省の案はともに企業による「自主目標」を前面に出し、産業界に受け入れやすい内容になった。排出量の上限(キャップ)の導入に強く反対してきた大口排出企業への配慮がにじむ。

ただし、これらの案はいずれも暫定的なもの。ポスト京都の枠組みが始まる13年からの本格導入時の市場設計については、両省とも従来の立場を変えていない。環境省は「試行的実施を踏まえ、最適なオプションを組み合わせる」、経産省は「取引制度に限らない、実効性ある対策のあり方を探る」としている。

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