江戸前寿司はパッと食べるのが「粋」な理由 影響したのは、江戸という都市の成り立ちだ

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しかも、真冬のこの時期は、日本全国、海が時化ていることも多く、良い魚がなかなか手に入りません。

今週、本当に美味しい寿司を食べに行こうと思っても、直前まで店が決まらないのは、このような事情があるからです。

なにしろ、肝心の美味しいマグロが築地魚市場全体で、この日1本(1匹)しかなかったようで、それを人間関係と値段を張って、各店が取り合っているのが現実です。

大抵、このようなマグロは、銀座にあるようなミシュラン店にはまわりません。

なぜなら、ミシュラン店に来る客の大半は、「美味しいに決まってる」と考えて来て大枚叩いてくださる素晴らしいお客様ばかりだからで、良い品は、常連客が多い、名はそこまで知られていない老舗に流れます。

この手の店がミシュランに載らないのは、限りある良い品を良い客にしか出さないからでして、なかには芸能人や有名人が来るとうるさくなるので、あえて良いネタを出さない店もあるほどです。

「粋」である、ということ

では、老舗の江戸前店はどのように客を見ているのでしょうか?

東京の下町生まれだった僕は、子供の頃に祖父さんやその友人たちに寿司の食べ方、というより振る舞い方を徹底的に仕込まれました。

それは、どこまでも「粋」である、ということです。

もともと何もないところに世界最大の都市を作った江戸は、開拓と建築のための人工、そして参勤交代制度などにより、単身赴任が多い「男の街」でした。

そこは、天皇家や貴族社会のような圧倒的な階層社会がなく、大半が武士であるフラットな社会構造が特徴で、かくある理由から、誰でもパッと食べられるストリートフードが大人気。

そのひとつが寿司で、いまでも店内にあるカウンターは、当時の屋台の名残です。

ですので、いまも東京湾(江戸前)で取れた旬の魚を、パッと食べてパッと帰るのが東男の粋なスタイルなのですが、江戸前ながらのネタを知ってることも大事です。

王道なコハダはもとより、この時期の江戸前は実に多彩で、僕が好きなのは東京湾で取れたトラフグです。

江戸前のフグの白子は、本当に美味しいし、粋な客には店も喜んで提供する一品だと思います。

その国には、その国ならではの食事情が必ずあります。

そこには、表層的なインターネットやグルメ本にはない、口伝の歴史が潜んでいるのです。

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高城 剛
たかしろ つよし

1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

 

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