あの新幹線メーカーが米国市場で陥った窮地 期待の準高速2階建て試作車が「試験不合格」

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今回の案件については、2014年度決算で原価高を理由に約90億円の受注損失引当金を計上しており、設計見直しによる材料調達の変更にかかわる費用などとして2015年度にも54億円の損失引当金を計上した。しかし、その後精査した結果、指摘された事項を手直しする程度では解決できず、「車両構造の基本となる構体構造からの見直しが必要」(日本車両)というほど、再設計が広範にわたることが判明した。

この結果を受けて、2016年10月には「新たに104億円程度の損失発生が今後予想される」と発表し、38億円の追加引き当てを行った。現在は、親会社のJR東海も技術者30人を日本車両に派遣し、グループをあげて車両設計に取り組んでいる段階だ。

2016年度第2四半期の短信時点では、納期は遅延するものの、「設計の見直し等に的確に対応」すべく人員増強などの対策を講じていた。ところが、打って変わって第3四半期の決算短信には「今後の案件遂行の方向性について現在協議を行っております」と記載された。つまり第3四半期に案件の継続性に疑問符がついたということになる。日本車両に短信コメントの意味するところを問い合わせたが、「短信に書いてある以上のことは申し上げられない」とのことだった。

損失額はさらに膨らむ可能性も

現地報道によれば、2017年9月までに車両が納入されないと米国4州は補助金を連邦政府に返却する必要があるという。この点についても日本車両に問い合わせたが「当方の契約は2016~2018年に車両を納入するというもの。先方の資金調達の状況は承知していない」とのことだった。とはいえ、車両設計が1年半近く遅れている状況で、当局の指定する2018年までに車両を納入できるかどうか。

もし米国4州が補助金を返却した場合、その後に考えられるのは、①米国4州が資金を負担して案件を継続する、②日本車両が受注金額を下げて案件を継続する、③契約を白紙に戻して仕切り直し、の3つだ。設計見直しの原因が日本車両側にあるなら、①という選択はありえない。おそらく②と③のどちらかで現在協議を進めているのだろう。②の場合は日本車両の損失額が増えることは間違いないし、契約が白紙にという事態になれば、日本車両に多額の違約金を科される可能性は否定できない。現在想定されている損失引当金は当初契約の枠組みを前提としたものだ。②、③いずれにせよ、枠組みが変わることで損失額はさらに膨らむ可能性がある。

日本車両の2016年12月末時点の株主資本の合計額は216億円だ。損失がかさむと23.8%の自己資本比率は一気に低下する。バックにはJR東海がついているものの、日本車両はトランプ発言一つで株価が急騰するのに見合うほど先行きに期待が持てる状況でないことは確かだ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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