任天堂が「マリカー」を訴えざるを得ない事情 「マリオ」のただ乗りは絶対に許せない

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「クールジャパン」という言葉が定着し、日本のコミックや音楽、映画やゲームが海外で評価されているとのニュースを見ますが、それぞれの分野の輸出額と輸入額の収支を見ると、黒字(輸出額が超過している)なのは実はゲームの分野だけです。

子どもたちに人気の「妖怪ウォッチ」や「ポケットモンスター」も、コミックやテレビアニメから始まったのではなく、ゲームのキャラクターが漫画化され、テレビアニメ化され、おもちゃやグッズが販売されるという順番をたどっているのです。

ゲームで世界中に知れ渡ったキャラクターの著作会社は、その後Tシャツやタオル、文房具やお菓子などのメーカーにキャラクターの使用を許諾することによって、巨額の著作権使用料を得ることができます。何もせず、ただキャラクターの使用を許可するだけで巨額のおカネが転がり込んでくるようになるのです。

使用料さえ得られれば良いワケではない

キャラクターの著作会社は、使用料さえ得られればどんな相手でも使用を許諾するわけではありません。例えば極端に印刷の精度が悪いキャラクター入りタオルが市場に出回ったり、キャラクター入りの味が悪いスナックが市販されてしまったりすると、そのキャラクターの価値を毀損してしまい、次第にキャラクターのブランド力を落としていってしまうからです。

キャラクタービジネスは「質のいいキャラクターイメージを長く保てるか」が肝心です。だからこそ、目先の費用対効果は度外視してでも、キャラクターの不正使用や海賊版に目を光らせ、排除しようとするわけです。

キャラクタービジネスを世界一成功させている会社は、言うまでもなくウォルト・ディズニーです。ディズニーのキャラクター著作権コントロールと不正使用の監視は世界中で徹底されています。任天堂がキャラクタービジネスを大きくしたいのであれば、ディズニーのような厳格な姿勢が必要なのでしょう。

世界中で大ヒットしたポケモンGOは、任天堂の製品ではありませんが、ピカチュウなどのキャラクターの権利を株式会社ポケモン(任天堂の出資会社)が持っていたことにより、任天堂にも大きな利益をもたらしました。昨年のリオ五輪閉会式に安倍晋三首相がマリオのコスプレで登場し、大きな話題を呼んだように、任天堂が世界に誇れる最大のキャラクターは「マリオ」と「ルイージ」。そのブランドイメージを毀損させるような「ただ乗り」は絶対に許せないというわけです。

三谷 淳 未来創造弁護士法人 代表弁護士

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みたに じゅん / Jun Mitani

慶應義塾大学法学部法律学科出身。2000年弁護士登録後は横浜の大手法律事務所に勤め、数多くの裁判を手がける。このころ旧日本軍の爆雷国家賠償訴訟に勝訴し、数々のマスコミに取り上げられる。しかし、2006年に独立し三谷総合法律事務所(現・未来創造弁護士法人)を設立すると、裁判はたとえ勝訴しても、時間がかかり、依頼者に強いストレスをかけ、結果的におカネも回収できないケースが多いことに気づき、徹底的に交渉術や紛争予防法を研究する。1日5件、週に20件、年間1000件の交渉を実践し、「日本一裁判しない弁護士」と呼ばれるようになる。紛争の早期円満解決や予防は、トラブルを抱えるクライアントだけでなく、企業経営者からも絶大な支持を受け、現在では「経営を伸ばす顧問弁護士」として地域、業種を超えて全国各地の上場企業から社員数名の企業まで100社近くの顧問弁護士を務める。

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