「メモリ特需」で日本の製造業は大復活する 東芝の大逆転はあるか?半導体新技術の実力

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東芝はもちろん、サムスンもいきなり15兆円(10工場分)の投資はできない。HP(ヒューレット・パッカード)をはじめ、すべてのサーバーメーカーがフラッシュメモリの生産能力増強を半導体メーカーに要請しても、世界の需要増にはとても追いつけないだろう。これが今、半導体業界に起きている大きな変化なのである。

勢いづく装置メーカーと素材メーカー

そして、フラッシュメモリのマーケットが膨張するとき、その恩恵にあずかるのは半導体メーカーだけではない。その製造工程で必要になる装置のメーカーも潤うはずだ。

たとえばメモリテスター(試験装置)のトップ企業は、断トツで日本のアドバンテストである。先日、同社のトップ陣にお会いすると、笑いが止まらない様子だった。メモリメーカーから事情を聞き、大型の設備投資を準備して増産体制を考えるらしい。

アドバンテストだけではない。メモリの製造工程でウエハに感光剤と現像液を塗るコータ&デベロッパーと呼ばれる装置の製造は、東京エレクトロンが世界第1位のシェアを持っている。同社ももちろん、マーケットの膨張に期待を寄せている。

あるいは東京精密、アルバック、SCREENセミコンダクター、ディスコなど、世界に名だたるトップ装置メーカーの幹部も同様だ。近い将来に訪れる千載一遇のチャンスを、すでに視野に入れているのである。

筆者はかねてからこの点を指摘し、いくつかのコラムにも書いてきた。半導体製造装置メーカー各社の幹部の方々からも、「まったく泉谷君の言うとおりだ」とお墨付きをいただいている。しかし、世界にジャーナリストは星の数ほどいるが、こういうことを初めに書いたのは筆者ただ1人であった。これは自慢ではなく、恥ずかしながら筆者の所属する「産業タイムズ社」にいる約40人の記者でさえ、当初は誰も気づかなかった。それだけ気づきにくい話なのである。

それはともかく、重要なのはここから。先に述べたとおり、日本の半導体デバイスの世界シェアは12〜13%しかない。部門別で世界のトップを走っているのはソニーのCMOSイメージセンサー、東芝のフラッシュメモリ、三菱電機のパワー半導体、日亜化学のLED、ルネサスの車載マイコンのせいぜい5つだ。最も重要なシステムLSIはまったく太刀打ちできないし、DRAMメーカーはもはや日本に存在しない。

しかし半導体製造装置については、日本メーカーがアメリカのメーカーと並んで世界シェアの約3割を持っている。少し前までは5割を占めて世界トップだったが、今はやや力を落とし、欧米と覇権争いを繰り広げている最中だ。

また半導体材料についても、日本メーカーが圧倒的に強い。具体的にはシリコンウエハ(半導体の基板)、フォトマスク(シリコンウエハに焼き付ける回路パターンの”原版”)、フォトレジスト(シリコンウエハに塗る感光剤)の3つが主な材料だが、その世界シェアの5割以上を日本メーカーが持っている。さすが、素材づくりは日本メーカーのお家芸といえるだろう。

つまり今後、半導体設備投資が世界的に活発化すればするほど、日本の関連産業は活況を呈するはずだ。恩恵を受けるのは東芝だけではない。日本製造業全体が特需の恩恵を受けることになる。それは、ほんの数年先、あるいはすでに実現しつつある”近未来予想図”である。

泉谷 渉 ジャーナリスト

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いずみや わたる / Wataru Izumiya

株式会社産業タイムズ社代表取締役社長。神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。1977年産業タイムズ社に入社、1991年に半導体産業新聞を発刊、編集長に就任。現役最古参の半導体記者としてキャリア35年を誇る。日本半導体ベンチャー協会理事としても活躍。主な著書に『これが半導体の全貌だ!』『これがディスプレイの全貌だ!』(以上、かんき出版)、『ニッポンの素材力』『ニッポンの環境エネルギー力』『1秒でわかる!半導体業界ハンドブック』『1秒でわかる!先端素材業界ハンドブック』『素材は国家なり(共著)』(以上、東洋経済新報社)、『日の丸半導体は死なず』(光文社)、『100年企業、だけど最先端、しかも世界一』(亜紀書房)などがある。

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