小田原・生活保護「SHAT」問題はなぜ起きたか 市職員が語る、知られざる「経緯と背景」

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それを信じてもなお、ジャンパーの文言には疑問が残る。問題のある部分が意味の読み取れない略語か英語表記だからだ。突き詰めて質問した。

──「悪撲滅チーム」「不正受給はカス」となぜ日本語で表記しなかったのか。うしろめたさがあったのではないか。

「そう思われても仕方ありません。そんな発想にも思い至っていなかったのが情けないかぎりです」(栢沼課長)

──チームの略称としては「SHAT」でなく、悪と撲滅を分けて「SHABT」のほうが自然ではないか。

「SHATと書いて『シャット』と読ませていた。SWAT(スワット=米国警察の特殊部隊)をまねたようです。撲滅の『B』を入れると読みにくくなってしまう」(同)

これでは“警察ごっこ”と大差ない。左腕には識別番号とコードネームのような職員のあだ名まで入っていた。

ジャンパー問題の発覚後、市が調査すると、「SHAT」のロゴが入った夏用ポロシャツやマウスパッド、マグカップなど関連グッズが出るわ出るわ……。詳しくは写真ページ(週刊女性PRIMEのサイト内)にまとめた。

「最初にジャンパーをつくった10年前は、職員が着用して受給者を家庭訪問するようなことはなかった。亡くなった独居老人宅の後片づけ作業などで着用していた。やがて文言の意味を伝えることなく、新たな職員にA4のプリントで機械的に購入希望を尋ねるようになり、『SHAT』がひとり歩きし始めてしまった。この問題が報道で指摘され、背中の英文を和訳してガク然としました」(栢沼課長)

「画期的な決断です」

弁護士や社会福祉関係者らでつくる市民団体『生活保護問題対策全国会議』(大阪市)は小田原市に再発防止を求める文書を提出した。

同会事務局長で日弁連・貧困問題対策本部事務局次長を務める小久保哲郎弁護士は、「学生のサークル活動のようなノリですよね。なぜ、これほど長いあいだ問題視されなかったのか」と話す。

小田原市の姿勢は改善されるのか。同市は一連の問題を検証するため、有識者らを交えた検討会を開く。そのメンバーについて評価できる人選があったという。

「元生活保護受給者が選出された。これは画期的な決断です。当事者は言われっぱなしで、意見を聞いてもらえることはまずありませんでしたから。大きな一歩前進ととらえています」(小久保弁護士)

同市には8日現在、計2143件の意見が寄せられている。市に批判的な意見が1115件。「いまから殺しに行くから待っとけ」と犯行予告まがいの電話もあった。「不正受給を許さないという立場は間違えていない」などと市を擁護する意見は973件。「ジャンパーを売ってくれ」「どこでつくったのか」などと脱線する意見も55件あった。

一方、市内の生活保護受給者からの意見は「それが1件もないんです」(前出の栢沼課長)という。言いたいことを言えないのかもしれない。言う気力がうせているのかもしれない。声なき声に耳を傾ける姿勢が求められる。

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