芸能事務所の「特殊かつ旧態依然」とした体質 2人の「清水」が起こした引退・活動休止の背景

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「とくダネ!」(フジテレビ系)の小倉智昭さんも、「『幸福の科学』の広告塔になってしまったような辞め方」と宗教団体の思惑を予想しつつ、「信仰の自由がありますから出家しようが自由なんですが、何で所属事務所に対する苦言をここまで呈する必要があったのかなと思います」と芸能事務所のフォローもきっちり。「芸能事務所に問題点があったかもしれない」という視点を避けるところに、「活動歴の長いベテランはさすが処世術に長けているな……」と、やるせなさを感じました。

ただ、菊川怜さんは「(富美加さんが)『大変そうだった』というのはわかる部分もあります。芸能人の仕事はちょっと特殊で、若いころは『大人と対峙したときに自分の意見を言えるかな』という苦労がありますから。そういうときに精神的に“誰かの支え”がないと難しい世界」と富美加さんの気持ちを思いやりました。

これが芸能事務所所属のタレントが言える精いっぱいのコメントなのかもしれません。現在38歳の菊川さんが22歳の富美加さんにこんな言葉をかけられたのは、芸能界の特殊な体質がずっと続いていることを物語っていました。今回の騒動は、「たまたま“誰かの支え”が宗教団体だったから大きな話になった」わけですが、副産物として芸能事務所のパワハラ体質疑惑が浮かび上がったのです。

タレントを襲うリアリティショック

その他のワイドショーも、判で押したようなコメントが並び、芸能事務所の体質に迫るコメントをした人はいませんでした。それどころか、富美加さんが「嫌がっていた」という水着の映像や写真をわざわざ引っ張り出し、繰り返し使う無慈悲さが際立っていたのです。

テレビ解説をしている立場としては非常に残念なのですが、芸能事務所に所属しているタレントと“タレント文化人”で固めた現在のワイドショーではこれが限界。芸能事務所に疑問を呈するコメントが飛び出すことはタブーのように扱われているのです。

多くのタレントは、過酷な労働と薄給に加えて、「意見を言ったら干される」という強迫観念、「先行投資してやっているんだ」という圧力、「いつかこうしてあげるから」という口約束などの厳しい条件に耐えながら活動しています。さらに、能年玲奈さんが過酷な状況下に置かれているように、一般人のような転職(事務所移籍)もままならず、絶望感に襲われる人も少なくありません。

もちろん厳しい労働環境や不満はどの業界でもあるものですが、タレントにはプライベートの不自由や、そこから来る苦痛も多く、そのプレッシャーは計り知れないものがあります。たとえば、「気軽に街を出歩けない」「イメージどおりの言動をしなければいけない」「髪型や服装を自由に変えられない」「異性と並んで歩くことさえ許されない」「性的な対象にされる」など。過重労働、パワハラ、プライベートの不自由が重なり、「自分一人の力では持ちこたえられない」というタレントは多く、これまで私も何人かの相談を受けてきました。

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