安倍首相は対トランプ異種格闘技に勝てるか 「日本も米国と同じ金融政策」は通じない
2015年の世界最大の経常黒字国である中国(2016年はドイツのもよう)が抱える問題は、資本流出によって元が売られていることだ。資本流出を食い止めるために中国政府は資本規制を強化しているうえ、元を買い支えるために為替市場で「元買いドル売り」介入を実施している。
こうした「元買いドル売り」介入を続けてきた結果、2014年のピーク時に約4兆ドルあった中国の外貨準備高は、2017年1月末には2兆9982億ドルと、5年11カ月ぶりに3兆ドルを割り込んだ。
要するに、トランプ大統領の批判は2015年8月に元の基準値切り下げを行ったという「古い事実」に基づいたもので、実際には「通貨安誘導を繰り広げている」どころか「元買いドル売り」介入を行って通貨安を食い止めようとしている中国を「通貨安誘導を繰り返している」と批判するのは「事実誤認」だといえる。
とすると、トランプ大統領にとっての正しい事実は「何年も通貨安誘導を繰り広げているのは、日本だけだ」ということになりかねない。日米の自動車問題などに関して「誤解があるなら伝えていくのは当然だ」と発言している安倍首相だが、通貨安政策に関してトランプ大統領が抱いているこうした不都合な誤解も解いていくつもりなのだろうか。
「米国も同じ政策をやった」という発言には隙がある
しかも、安倍首相の「リーマンショック以降、米国もわれわれと同じ政策をやり、経済を引き上げ、リーマンショックを乗り越えた」という発言は、トランプ大統領側から大きな反撃を食らいかねない。
確かに、米国はリーマンショック後、世界に先んじて量的緩和(QE。第1弾のQE1から第3弾のQE3まで計3回)を実施することで経済を立て直してきたことは事実だ。こうした経緯があったがために、米国はこれまで日本やEUの量的緩和に寛容な態度をとってきたといわれている。
しかし、それにも限界がある。安倍首相が上記のような反論をしたら、米国側から次のような反論を浴びせられる可能性があるからだ。
まず、米国はリーマンショック後にQE1、QE2、QE3と3回量的緩和を行ったが、期間で見るとQE1が1年8カ月、QE2が8カ月、QE3が2年2カ月の、計4年6カ月である。しかも、QE3の最後の10カ月間は量的緩和の拡大規模の減速(テーパリング)期間であるため、積極的な量的緩和を実施していたのは実質約3年8カ月程度だということができる。
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