教育困難校の教師たちは「警察官」化している 中退率減少、治安維持にも貢献

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門番だけではない。「教育困難校」の教員が行う仕事のほとんどは、警察官か警備員が行うような内容のものだ。立ち番の教員の目をくぐり抜けて脱走した生徒がいれば、大勢の教員が生徒の向かいそうな場所に「山狩り」に行く。教室内で個人の持ち物がなくなったという訴えがあれば、急きょ、授業時間を使って持ち物検査を行う。

もちろん、「個人情報だぁ」「人権侵害だ」などと抵抗する生徒も少なくないが、毅然とした態度で実行する。その過程で、たばこが発見され新たな生徒指導の案件ができてしまうこともある。

刑事のように取り調べをする

言葉や態度によるいじめには不断に目を光らせていなければならない。今はSNS上のいじめが大半になったが、個人の持ち物を隠すとか黒板に個人名を出して「キモイ」「死ね」などと大書する、という古典的ないじめの方法も生き残っている。それらに教員がいち早く気づき、いじめた生徒をその都度、厳重に指導しないと、行動はどんどんエスカレートしてしまう。

リアル空間とネット空間の両方に注意しなければならないので、教員の負担は一昔前とは比べものにならない。「何かあったらこの先生にSOSを出そう」と思わせる生徒との信頼関係づくりが、いじめの発見と防止には本来いちばん有効なのだが、それを構築するほど生徒と向き合う時間的・精神的余裕がない教員も多い。

暴力事件やカツアゲも、校内外を問わずよく起こる。その場合には、関係者を授業に出させず、生徒同士が相談して話のつじつま合わせを行わないように、一人ひとり別室に入れて事情聴取を行う。関係者が大勢のときには、学年や校務分掌にかかわらず、手の空いている教員が授業を自習にしてこの業務にあたる。最初は反抗的な態度で話そうとしない生徒でも、手慣れた教員が行うと、まるでテレビの刑事ドラマの一場面のように鮮やかに「落ちる」。本来は立派な犯罪であり、警察に知らせるべき事件でも、この校内の取り調べと生徒指導の処罰で終わらせることが多い。未成年者の履歴に傷をつけたくないという温情か、あるいは学校のさらなる評判低下を恐れてか、被害者がよほど強い意志で訴えると言わないかぎり、警察ざたにはしないのだ。

事件を起こした生徒は、停学や家庭謹慎という処罰が与えられることが多い。しかし、複雑な家庭の事情があって、家にいられても困ると家族から申し出があったり、課題や勉強を家庭で行えるとは思えない場合には登校謹慎となり、別室でほかの生徒から隔離されて数日間過ごす。この間の監視も教員の仕事になる。

特別に事件が起こらなくても、「教育困難校」は地域住民に毛嫌いされていることが多いので、教員が地域社会から要求されることも多い。「登下校の際の自転車の乗り方が悪い」「途中でごみを捨てて困る」などの苦情が次々と寄せられ、その都度、生徒の指導に奔走する。「悪いマナーを目撃したら、その場で注意してくれればいいのに」と内心思いながら。

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