日本は「勉強」と「仕事」の間に差がありすぎる 即戦力を生むドイツの「職業教育」に学ぼう

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最後に、職業教育は、職種採用が前提となる。たとえば、人事なら人事、営業なら営業で採用する。職種の変更は原則ありえない。そうでなければ、職業教育を通して専門知識を学ぶ意味がなくなってしまう。職業教育を受けた人は、「総合職」などではなく、職種別に採用されるべきだ。

ドイツのデュアルシステムを参考にするのであれば、少なくともこの3つの条件はクリアしなくてはならないだろう。職業教育の目的は、高校生や専門学校生にインターンをさせることではない。教育と就業を通し、社会的に自立するスキルを習得することだ。そういった人材を育成したいのなら、専門学校や高校と、企業が連携することが第一歩になる。

「学問」と「仕事」に大きな隔たりがある

受け入れ企業がなければ話にならないので、国は企業に助成金を出したり、企業の負担が軽くなるよう、指導員を派遣したりするといいだろう。企業は賃金を払いながら、訓練生に「将来に役立つスキル」を学ばせる。学校では、仕事上必要になるであろうスキルを、指導要領に従って教える。それによって初めて、職業と教育が結び付くのだ。そこまでやっていたのであれば、「日本版デュアルシステム」も、もう少し違った結果になっていたかもしれない。

日本は、学校で勉強する「学問」と、就職後の「仕事」には大きな隔たりがある。いきなり、教育現場と企業が手を取って、制度としてしっかりと機能するのは難しいだろう。だがそれでも、職業教育は、日本でも必要なはずだ。職業教育によって、手に職をつけられる人が増え、社会的に自立しやすくなるだろう。

特に女性にとっては、産休や育休のことを考えると、職業教育修了が大きな武器になる。また、専門分野を持っている人材の育成は、企業にとってもメリットがある。採用も職種に沿ったものになるので、日本では育てづらい特化型の人材が生まれる。進学を断念せざるをえなかった貧困層や、職業能力を培うことができずに埋もれていた若者の受け皿にもなる。

日本ではいまだに、入社してから研修することが根付いている。だがこれからの時代に本当に必要とされるのは、しっかりと職業教育を受け、専門分野を持った人材だ。なんとなく進学し、なんとなく就職する学生が多い中、職業教育を導入すれば、日本の雇用制度に大きな転機をもたらすだろう。

雨宮 紫苑 フリーライター

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あまみや しおん / Shion Amamiya

1991年、神奈川県生まれ。立教大学在学中にドイツで1年間の交換留学を経験。大学卒業後再び渡独。ワーキングホリデーを経て現地の大学へ入学し、現在フリーライターとして活動中。日独比較や外から見た日本など、海外在住者の視点で多数の記事を寄稿している。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。

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