トランプ相場の「第3幕」は本当にあるのか いずれ円高が来るなら、投資は少額で良い

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こう考えると、大変だ。フォードがメキシコに工場を建設する予定だったのを、トランプ大統領の「鶴の一声」で米国内に建設する方針に変更したのはその典型例である。しかし、トランプ大統領にとって重要なことは、米国の繫栄だ。米国として収益が最大に上がる方法であれば、トランプ大統領は口出しをしないだろう。

問題は、日本企業はこの「傘下」に入るのか、である。その判断は極めて難しい。だが日本国外で競争することは、さまざまな意味でリスクも伴う。少なくとも米国民の雇用を保障し、それを一段と目に見える形で実行することが求められそうだ。確かに、トランプ大統領はすべてを正しく理解していない節がある。実際、日本企業は米国内で多くの米国人を雇用している。しかし、トランプ大統領はあえてそのことに触れずに、問題があるかのように振る舞っているのだろう。そう振る舞うことで、自国に優位になるように仕向けていると考えているはずである。日本企業だけではないが、改めて、大変な時代を迎えたといえる。

「少しずつ」投資をして、株価の下落に備える

投資をするうえで重要なポイントは、やはりドル円相場の水準であり、方向性だ。トランプ大統領は「現在のドル高では中国とは競争できない」とし、ドル高をけん制する発言をした。ムニューチン次期財務長官候補も、「過度に強いドルは短期的には米国経済にマイナス」とし、バランスをとりつつも、ドル高けん制を明確にしている。

今後、トランプ大統領が推し進めようとする政策を実行すれば、ドル安志向にならざるを得ない。これは筆者が従来から指摘してきた通りだ。イエレンFRB(米連邦準備理事会)議長が「利上げペースを速める」といったたぐいの発言をし、これまでの慎重な姿勢から大きく転換したかのような印象を与えているが、これはこれまで自身を批判してきたトランプ大統領への当てつけである可能性もある。いずれにしても、FRBの政策の重要度は、トランプ大統領の登場によって、従来よりも低下した感がある。

もちろん、トランプ大統領の言動を快く思っていない人は決して少なくない。だが市場を見るうえでは、そのような個人的な好き嫌いは関係ない。むしろ、投資判断を曇らせる可能性の方が高い。いまはトランプ大統領の言動を淡々と見守り、その成果や影響を見極めることが肝要である。

それでも具体的な投資戦略が浮かぶわけでもないだろう。とすれば米国の今後の成長性が変わらないことを前提に、無理せず少しずつでも投資をし続けるのが、結局は勝利への近道かもしれない。

果たして、このあとトランプ相場の「第3幕」があるのかはわからない。言えることは、「第2幕」が終わり、何らかのショックで大きく株価が下落したときに、たっぷりと仕込めるように現金を用意しておくことである。トランプ大統領が、米国への投資をさらに促すような政策を打ち出せば、このような考えに基づく投資は長期的に見れば奏功するだろう。また、今後はドル安円高になりやすいことを考慮すれば、投資対象としては、日本株よりも米国株に分があるだろう。この点にはこれまでも、そしてこれからも注意が必要と考える。

江守 哲 コモディティ・ストラテジスト

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えもり てつ / Tetsu Emori

1990年慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事入社。2000年に三井物産フューチャーズ移籍、「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」としてコモディティ市場分析および投資戦略の立案を行う。2007年にアストマックスのチーフファンドマネージャーに就任。2015年に「エモリキャピタルマネジメント」を設立。会員制オンラインサロン「EMORI CLUB」と共に市場分析や投資戦略情報の発信を行っている。2020年に「エフプロ」の監修者に就任。主な著書に「金を買え 米国株バブル経済の終わりの始まり」(2020年プレジデント社)。

 

 

 

 

 

 

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