引退したアスリートは、その後何ができるか 元プロサッカー選手のセカンドキャリア論

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もう1つの問題は、日本の労働市場にある。近年、徐々に改善傾向にあるが、学歴を重視しての新卒一括採用はいまだに顕在である。また、年功序列や終身雇用の名残もあり、日本の労働市場の流動性は低い。新卒のタイミングを逃すと、一般的な企業への就職は難しくなる社会制度がいまだにある。

僕はというと、2010年のシーズン終了後に戦力外通告を受けて、25歳でプロサッカー選手を「クビ」になった後、米国の大学院で修士号を取り、29歳のときに三菱総合研究所で働き始めた。中途採用枠での採用だったが、待遇は大学院卒の新卒と同じ。一方で、期待される業務上の成果は新卒よりも高いという状況だった。

僕の場合は、大学院に進学したことで「学歴の壁」を越え、さまざまな条件がたまたまそろったおかげで、中途採用に至った。だが、一般的には、30歳近くで、職業経験はサッカーのみという人材を採用する場合、どの枠で採用していいかわからない企業が多いのではないか。

採用のしやすさのみで比較するなら、新卒で体育会系の部に所属していた22歳のほうが、29歳の元プロサッカー選手よりも採用しやすい制度が日本にはある。労働市場で元アスリートになかなかチャンスが与えられないため、結果的に彼らは自分の周りにある限定的な業種・職種に流れていってしまう。

引退後に向けて、アスリートがやるべきこと

では、アスリートは引退後のキャリアに向けて何をすべきか。 一般的には、語学、簿記などのスキルを身に付ける、読書の習慣をつける、などがよく言われることだが、僕の答えはまったく異なる。

セカンドキャリアのことなど考える必要はなく、目の前の競技で徹底的に上を目指すことが重要だ。

なぜなら、すでに述べたように、社会で活躍するために必要なスキルは競技を通じて身に付けることができるのだから。引退後、セカンドキャリアにおいて本当にすべきなのはマインドセットを変えること。競技を通じて培った自身の思考へと、意識を向けることだ。

ただ、スポーツで培った能力が他分野で応用可能なのと同じように、現役のアスリートにとっても他分野にある考え方やスキルを競技に応用可能であることには気づいてほしい。そうした観点からすると、資格や読書などにより見識を広げることは、人間としての幅やスキルの向上に加えて、競技力向上のヒントが得られるすばらしい「トレーニング」だと思う。

企業側にもアスリートの人材としてのポテンシャルに目を向けてほしいと思う。労働人口の高齢化により、国内の優秀な人材の確保は年々難しくなっている。国の政策レベルでも、「一億総活躍社会」という労働力不足に対応するための策を優先事項として挙げている。「元アスリート」は、人材プールとしてほぼ未開拓のマーケットであり、そのポテンシャルを眠らせておくのはあまりにもったいない。

来たる東京オリンピック・パラリンピックは、アスリートの存在価値を見直す絶好の機会だと思う。アスリートが自身の能力を自覚して立ち上がり、日本社会がアスリートにより幅広いチャンスを与えたとき、日本はまた一歩、前に進むことができるはずだ。

阿部 博一 アジアサッカー連盟 プロジェクトマネージャー

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あべ ひろかず / Hirokazu Abe

1985年生まれ、東京都出身。道都大学卒業後、V・ファーレン長崎にサッカー選手として加入し、3シーズンプレー。最終年はプロ契約を結ぶ。2010年のシーズン終了後に戦力外通告を受ける。その後、米カリフォルニア大学サンディエゴ校に進学し、国際関係学修士を取得。2014年に三菱総合研究所へ入社。スポーツ及び教育分野の調査案件に従事。2016年よりFIFA傘下で、アジアの国・地域のサッカーを統括するアジアサッカー連盟(AFC)にてプロジェクトマネージャーとして勤務。英検1級、プロジェクトマネジメントの国際資格PMP(プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル)を保有。趣味は筋トレ。

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