JR北海道は「札幌圏」の黒字転換をできるのか 経営改善へ、副社長に聞く課題と方策

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さて、JR北海道札幌都市圏の黒字化を実現するためには、さらなる増収と費用削減を進める必要がある。増収策としては、特急や有料座席の利用促進による客単価向上と、普通列車も含めた鉄道乗車人員増加に向けた取り組みを提案したい。

混雑する時間帯および区間では、有料座席への需要があることは、快速「エアポート」が証明している。札幌駅以西の区間限定で、割安な料金の月間指定席定期券を発売することを考えてみてはどうだろうか。導入費用などがかかるが、Suicaグリーン券システムと同様のKitacaによる車内改札システムを導入し、さらに車内料金を設定することで、快速「エアポート」とともに車内改札の効率化を図ることができる。

そして、鉄道乗車人員を増やすためには、駅および駅周辺の魅力を高めることが重要である。具体的には、魅力的な駅ナカ店舗の展開や、駅直結の行政機関、医療機関、商業施設、およびマンションなどの住宅の新設・増設が考えられる。例えば、首都圏において東武伊勢崎線曳舟駅に直結する病院が2017年に完成予定であるが、JR北海道の駅においても駅直結の施設を増やすことで、鉄道を利用する機会を創出することが可能となる。

また、JR北海道および札幌市営地下鉄の駅を中心に駅ナカ店舗を展開している子会社・北海道キヨスクの2015年度の業績は売上高182億円、営業利益4.6億円、当期純利益1.8億円と黒字を計上している。特にセブン-イレブンに転換した店舗について、JR北海道広報部は「環境や面積により異なるものの、旧業態(サンクスやキヨスク売店)からセブンへ転換すると売上が3割程度増える傾向にあり、今年度のセブン-イレブン部門全体の売上も前年新店の通年化や既存店の好調などで増収基調にある」と説明する。

札幌圏の黒字転換へ知恵を絞れ

また、駅ナカ施設としてクリニックを加えるのはどうだろうか。実現すれば、日々仕事に追われるビジネスパーソンが出勤時または退勤時に診療を受けられるようになり、重大な疾病の早期発見・早期治療に貢献する。それがひいては、JR北海道沿線住民のQOL(生活の質)向上にもつながるはずである。

特急や「ホームライナー」の充実による着席通勤・通学を日常の生活スタイルとして定着させること、そして駅ナカ店舗および駅直結の各種施設のラインナップを強化して鉄道の魅力を高めることができれば、マイカーから鉄道利用へのシフトを促進できる可能性を秘めている。

JR北海道札幌都市圏の黒字転換を実現するために、JR北海道による積極策とともに、ステークホルダーの英知を結集させ、鉄道および駅の魅力を総合的に高める取り組みが今こそ求められている。

大塚 良治 江戸川大学准教授

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おおつか りょうじ / Ryouji Ohtsuka

1974年生まれ。博士(経営学)。総合旅行業務取扱管理者試験、運行管理者試験(旅客)(貨物)、インバウンド実務主任者認定試験合格。広島国際大学講師等を経て現職。明治大学兼任講師、および東京成徳大学非常勤講師を兼務。特定非営利活動法人四日市の交通と街づくりを考える会創設メンバーとして、近鉄(現・四日市あすなろう鉄道)内部・ 八王子線の存続案の策定と行政への意見書提出を経験し、現在は専務理事。著書に『「通勤ライナー」 はなぜ乗客にも鉄道会社にも得なのか』(東京堂出版)。

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