アベノミクスで「労働分配率」が低下する理由 最新のGDP統計から見える日本の実態

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分母である国民所得は、2015年度に389兆円を記録した。これは過去20年のピークである1996年度の391兆円に近い。一方、分子の雇用者報酬は2015年度263兆円で、過去20年のピークである279兆円(1997年度)とはやや差がある。

「1人1時間当たり賃金」が伸び悩み

分子である雇用者報酬は「雇用者数」と「労働時間」、「1人1時間当たり賃金」の3つに要因分解できる。これをみると、雇用者報酬が伸び悩んでいる理由が一目瞭然にわかる。

雇用者数がほぼ一環して伸びているのに対し、労働時間は減少し続けている。1994年度に約1900時間だった年間労働時間は、2015年度に1750時間まで減少した。増えた雇用者が女性や高齢者中心で、短時間労働者が増えたことも影響していると思われるが、長時間労働の弊害がこれだけ叫ばれている今、好ましい動きだと言える。

最大の問題は、1人1時間当たり賃金が伸び悩んでいる点だ。1994年度を100として、2015年度は101・1。1990年代後半に一時伸びたが、その後はほとんど横ばいで推移している。

以上のような分析から、アベノミクスの4年間をどのように評価できるだろうか。2012年末に安倍政権が発足して以降、雇用者報酬はたしかに伸びている。2012年度に253兆円だったのが、2015年度には263兆円となった。順調に伸びていると評価していいだろう。

しかし、伸びの理由は、賃金ではなく、雇用者数が増えたせいだ。1947年~1949年生まれの団塊世代は、安倍政権の発足した2012年にちょうど65歳に達した。その彼ら彼女たちが65歳以降も働き続けている。ここ数年、65~69歳の就業者数の伸びが加速している。

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