新興国に”教育革命”を起こす、24歳の日本人 新世代リーダー 税所篤快
現役大学生がバングラデシュに革新を起こすまで
――なぜ日本の現役大学生がバングラデシュの片田舎で教育を手掛けることになったのでしょうか。そのきっかけを教えてください。
このプロジェクトが始まったきっかけは、高校時代の数学のテストの点数が、100点満点中2点だったことにあります(笑)。そのとき、出会ったのが、衛星予備校の「東進ハイスクール」。同校はフェイス・トゥ・フェイスの授業をやらず、全部、ビデオ学習の授業を行っていました。この授業を受けていたら、ひどい成績だった僕が、1年後には早稲田大学に合格することができました。
この経験から、「東進ハイスクール」のビジネスモデルを、先生不足に悩む途上国でマネすれば、インパクトのあるイノベーションを起こせるのではないかと思ったのです。
最初に、バングラデシュの最果てのハムチャー村という場所でビデオ学習を実践したところ、受講生30人の中から、ダッカ大学の合格者を出すことができたのです。ほかの生徒たちも10人、20人と、どんどん大学に受かっていきました。これを現地のメディアが「ハムチャー村の奇跡」と呼び、「日本から来た若者とバングラデシュの大学生が教育革命を片田舎で起こした」と報じました。これが2011年のことです。朝日新聞では「バングラデシュ版『ドラゴン桜』始まる」という見出しで記事になりました。
僕たちは「サンダーバード」になりたい
バングラデシュの経験を生かし、同様の取り組みを世界の8地域に広げています。
たとえば、パレスチナのガザです。ガザは、5~6メートルもある高い壁が取り囲んだ10キロ×40キロの地域に140万人が住んでいる場所で、文字どおり“刑務所のような街”です。ここに小学生が27万人いるのですが、そのうち30%が学習障害(LD)なのではないか、という予測をフランスのコンサルティング会社が出しています。
ガザには学習障害の子どもたちに特別支援教育を行う18人の先生たちがいるのですが、実は彼らは学習障害に関する専門知識がほぼありません。かといって、壁のせいで専門家も送れない。そこで、中東でアラビア語のわかる学習障害の専門家を探し、その専門家を講師にして、18人の先生たちにオンライン授業を行いました。まだまだ27万人の30%をカバーするには足りませんが、小さな火種は灯すことができたのではないかと思います。