「ブロックチェーン」は世界をこう一変させる 仮想通貨の技術が国境を越えて駆け巡る時代

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また金融ビジネスに関しても、貿易金融や証券取引、国境を越えた送金などの業務を通じて、取引の効率化が進み、金融機関のオペレーションが改善しうる。さらにはそこで得られる情報を使ったサービスも展開できるかもしれない。現在、日本取引所の証券取引の実証実験も行われており、実装が進めば、金融機関のビジネスモデルを変えることもありうるのだ。

安定した政府が設立されていない、社会インフラが未整備な発展途上国の人たちにも、ブロックチェーンによる金融サービスが提供され、生活上の課題の解決が図られることも期待されている。

ブロックチェーンが使われている仮想通貨は、値上がり益狙いの資産として保有されることが多く、2016年には大規模なハッキング事件などもあった。ただ、実際に通貨として利用される機会は、少しずつ広がっており、時価総額も拡大している。ビットコインを使った取引がいつの日か既存通貨を脅かす存在となるかもしれない。

このようにブロックチェーンは、政府の行政サービスを便利にしたり、新しいビジネスを次々と誕生させ、金融サービスを効率的にするだろう。ビジネスの連携を通じた産業構造の変化、政府や企業の生産性向上を通じて、経済社会を大きく発展・変化させうる技術といえる。

大量取引への対応や参加者の合意形成で課題

ただし、ブロックチェーンは、潜在的可能性は高いものの、まだ発展途上の技術だ。現段階では、大量の取引に対応できない、スマートコントラクトに書き込んでいない想定外の事態への対応が難しい、参加者の合意形成の方法にさまざまな解決すべき課題がある、などまだまだ多くの課題がある。研究開発を繰り返し、課題を克服しながら、社会に実装していかなければならない。

今後、ブロックチェーン技術の発展とその応用に必要とされるのは、官民による研究開発や実装に向けた実証実験の積み重ねだろう。官民ともに新しいサービスに対する利用者の信頼を得ながら進める必要がある。日本政府も自らが導入検討の実践者となると同時に、民間企業のイノベーションを積極的に支援するべきだ。一方、企業は積極的に他社と連携したオープン・イノベーションに取り組み、システムの標準化に対応してもらいたい。

技術進歩の流れは速く、ブロックチェーン・ネットワークが参加者間で縦横につながり、グローバルに急速に広がるかもしれない。潜在的な可能性を考えて、企業は経営戦略を検討し、技術力を磨いて、ビジネスモデルの改革につなげなければならない。

なお、ブロックチェーンの仕組みや取組事例を詳しく知りたい方は、NIRA(総合研究開発機構)のリポート「ブロックチェーンは社会をどう変えるか」を参照して頂きたい。

翁 百合 日本総合研究所理事長/ NIRA総合研究開発機構理事

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おきな ゆり / Yuri Okina

京都大学博士(経済学)。1984年日本銀行入行、1992年 日本総合研究所に移り、 2018年から理事長。この間、慶應義塾大学特別招聘教授、株式会社産業再生機構非常勤取締役兼産業再生委員、規制改革会議・健康医療ワーキンググループ座長 などを歴任。現在、未来投資会議・構造改革徹底推進会合「健康・医療・介護」会合会長、金融審議会委員 、総合研究開発機構(NIRA)理事 などを務める。内閣府「選択する未来2.0」懇談会座長。著書に『金融危機とプルーデンス政策』(日本経済新聞出版社)、『不安定化する国際金融システム』(NTT出版)、『国民視点の医療改革』(慶応義塾大学出版会)など。

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