北陸新幹線延伸の「費用対効果」はどうなるか 敦賀以西の延伸ルートは「小浜・京都」に

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九州新幹線の全線開業へ向け、工事が進むJR博多駅ビル=2009年5月

国土交通省によるB/Cの試算や鉄道・運輸機構の評価作業は、ルート選定や開業効果の測定に際し、非常に重要な位置を占める。ただ、基本的にこれらの作業は、いわば「沿線全体を総合した評価」である点には、留意が必要だろう。

この連載でもたびたび言及してきたように、整備新幹線の沿線で発生する現象は“まだら模様”だ。駅の立地や沿線の都市政策、さらにはダイヤ設定によって、沿線内でも利害が必ずしも一致しない。加えて、駅が所在する都市の内部でも、駅周辺と既存商店街との対立構図が発生したりする。並行在来線の沿線が被ったダメージについては、根本的な対策が見えにくい。

その一方で、経済効果にとどまらない市民活動の発生や進展、シビック・プライドの醸成など、「今は経済効果に直結しないかもしれないが、中長期的にみれば、人口減少社会の再デザインや持続可能性につながるかもしれない効果」が多数、見いだせている。

以上のような背景を考慮して、鉄道・運輸機構は事後評価時、マニュアルによる評価に加え、特に都市単位の効果・影響と都市政策をめぐり、地元自治体などと連携した評価作業へ徐々にバージョンアップを図っているという。この取り組みは、さらに進展させる意義と余地がある。

そもそも、沿線自治体や経済団体、住民は事後評価作業の結果をどう受け止め、政策形成や新幹線対策に活用しているのだろうか。国や鉄道・運輸機構と沿線地域・各都市の間に、政策形成に関する議論や情報の循環が生まれなければ、新幹線建設がもたらしている地元の変化、特にネガティブな変化については、克服どころか対応の検討も困難だろう。

数十年先の社会にもたらす「効果」評価の難しさ

整備新幹線をめぐる効果の評価手法やその結果は「国と自治体」「自治体と住民」「自治体の業務」それぞれについて、「コミュニケーションのあり方」「連携力・デザイン力」をめぐる、深く大きな問いを投げかけてくる。四国や東九州など、「ポスト整備新幹線」というべき、着工が提唱されている基本計画路線についても同様だ。

整備新幹線はもともと、地域振興、つまりは地域の経済的発展や定住人口の増加を企図して構想された。しかし、構想当時の「効果」と、人口減少・高齢化・少子化が加速する現状とでは、新幹線を取り巻く社会も、期待すべき「効果」の姿も大きく変化した。整備新幹線各線は、整備計画から開業まで数十年単位の歳月を要し、予想を大きく上回る人口減少、青函トンネル内での速度制限といった、想定外の事態にも直面している。

基本計画線が整備計画に格上げされ、着工が認可されて完成にこぎ着けるまでのタイムスケジュールを頭に入れると、沿線地域は「数十年先の社会像」をイメージした上で、新幹線の活用法を検討するという、極めて難易度の高い作業を迫られることになる。

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