近大は「実学教育」という堅実さを長年訴求していたものの、実学というメッセージはイメージが湧きにくく、偏差値という軸での勝負を強いられていた。
そこで近大が打ち出したのが、ご存じの方も多いであろう「近大マグロ」だ。2003年には株式会社アーマリン近大というベンチャーを立ち上げ、近大マグロの出荷も始めている。また、2013年には養殖魚専門料理店「近大水産研究所」を東京・銀座、大阪にオープンした。30年以上辛抱強く研究を重ね、2002年、同大がようやく完全養殖に成功したクロマグロだ。
「実学教育」といってもなかなか伝わりきらなかった堅実な大学の姿勢が、「近大マグロ」というインパクトと実績が一体となったコンセプトにより、一気に伝わるようになった。わかりやすいコンセプトは瞬く間に広がり、社会に通用する人材になりたい受験生の共感を得られた。
ただ、「近大マグロ」のすごさを、インパクトがあっただけでしょと、片付けてしまうと本質を見誤ってしまう。
「近大マグロ」の本質は、「伝えたい主張」と「信じられる理由」がひとつに集約されていることだ。通常、マーケティングでは、主張を伝え、それをReason to believe(信じられる理由)でサポートするという二段論法でいく。しかし、近大マグロは「近大マグロ」と伝えるだけで、「実学教育」と言わずとも、これだけ難しい研究成果をあげているのだから、社会に通用する人材になれるはずと一発でわかるコンセプトになっている。
「近大マグロ」というシンプルなコンセプトを作り上げたことで、「偏差値とは別軸で勝負し、実学教育をもっと理解してほしい」近大と、「納得感を持って大学を選び、社会で活躍する人材になりたい」と願う受験生の重なりが生まれた。
近畿大学飛躍の理由
近畿大学飛躍の理由はもちろん多数ある。ただ、近畿大学は社会に通用する人材になりたいという受験生に対して、「近大マグロ」というワンメッセージで、世界初でクロマグロの完全養殖を成功させた「実学教育」という信じられる理由を言い切れたことが、ここまで大きな成果につながっていると言える。
また、「近大マグロ」という唯一無二の存在と「近畿大学」自体を重ね合わせることで、偏差値では測れないポジショニングに成功した。第一志望ではなく通っていた在学生にとっても、あえて「近大マグロ」の近大に行ったと言える在学生の拠り所となった。
これがもしも、近畿大学が「私たちは『実学教育』を実践しています。養殖に取り組んできた実績があり、クロマグロの養殖に成功しています」と伝えていたらどうだっただろうか。「近大マグロ」というシンプルなコンセプトで伝えたときほど大きな結果は得られなかったかもしれない。
ロッテの「キシリトールガム」も同様だ。「ガムは歯にいいです」とメーカーが主張しても誰も信じなかったはずだが、キシリトールという主張と根拠を一体化させたコンセプトを作り出したことで、虫歯を予防したいと思うユーザーとガムの需要を増やしたいロッテをガムのように、よく密着させた。
拙著『問題解決ドリル 世界一シンプルな思考トレーニング』でもコンセプトの作り方を解説しているが、主張だけではなく「信じられる理由」とセットにすることが重要だ。主張と根拠を一体化させたことで、養殖の近大マグロは、天然物のサクセスストーリーとなった。
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