快進撃「かつや」、安くて早いカツ丼の舞台裏 こうして「調理に手間がかかる」を乗り越えた

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これらの取り組みの結果、かつや直営店1店舗あたりの平均月商は右肩上がりで成長。上場初年度の2007年は670万円だったが、2015年に791万円に拡大。2016年は800万円超の着地となる見通しだ。「既存店の売上高が伸びるということは、まだ店が出せるということ。(現在の倍の水準である)700~800店が一つの目安だと思っている」(伊藤社長)。

近年、国内では年間30店以上の出店を継続しているが、店舗の7割弱はFC(フランチャイズ)店だ。FC店は売上高の一部をロイヤリティとして支払う必要があるが、1店舗運営の場合は5%、10店舗運営すると3.5%というように、同一オーナーが店舗数を増やすとロイヤリティを下げる仕組みになっている。資金力のある地場の有力企業が複数の店舗を持つケースが増えていることが、安定した出店につながっている。

ただこのところ、かつやのライバルになり得る低価格業態が台頭してきた。中でも急速に店舗を増やしているのが、牛丼チェーン大手の松屋フーズが展開している「松のや」だ。同社は、今2017年3月期にとんかつ店を45店出店、店舗数を期末に126店まで増やす計画だ。

市場は前年比2割増、1500億円規模に

ロースかつ丼は490円と「かつや」と同価格で、定食は600~700円台が中心だ。松屋フーズの瓦葺一利社長は「松のやは成長エンジンとして出店を進めていきたい。業界ナンバーワンを目指す」と意気込む。

さらに、まだ数店舗ではあるが、2016年に入り居酒屋チェーンのコロワイドやファミリーレストランのすかいらーくもとんかつ店を立ち上げた。外食・中食の継続調査を行っている市場調査会社、エヌピーディ・ジャパンによると、とんかつ専門店の市場規模は2015年に1492億円(外食・中食計)で前年比2割増加。同社の東さやかシニアアナリストは、「格安のとんかつ市場は未熟で、高価格の既存とんかつ店からの客を奪うことが可能。揚げ物をしない家庭が増えており、内食や小売からの顧客シフトが期待できる」と新規参入が増えている理由について分析する。

競合の台頭に、差別化戦略を推し進める伊藤永社長(写真:記者撮影)

かつやの伊藤社長は「これまでは競合がいるという認識すらなかったが、最近は気にしている。今年は肉へのパン粉や塩こしょうの付け方を時間をかけて研修し、かなりレベルが上がった。他社が真似しようにもできないと思われるくらい、面倒臭いことにどんどん投資をしていくのが差別化ににつながる」と語る。

にわかに盛り上がりを見せ始めた低価格とんかつ業界で、かつやは盟主の座を守ることができるだろうか。

常盤 有未 東洋経済 記者

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ときわ ゆうみ / Yuumi Tokiwa

これまでに自動車タイヤ・部品、トラック、輸入車、楽器、スポーツ・アウトドア、コンビニ、外食、通販、美容家電業界を担当。

現在は『週刊東洋経済』編集部で特集の企画・編集を担当するとともに教育業界などを取材。週刊東洋経済臨時増刊『本当に強い大学』編集長。趣味はサッカー、ラーメン研究。休日はダンスフィットネス、フットサルにいそしむ。

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