日本にとって、TPPは「無用の長物」に変質した 米国抜きという「悲劇的な代替案」に現実味

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情報に非常に詳しい東京の関係者によると、日本は少なくとも現時点では、トランプ氏が当選したからといって、ニュージーランドのようなプランBを検討してはいないようだ。また、日本以外のアジア諸国の関係者によれば、アジア諸国は10月中旬の時点で、非公式レベルですらプランBに関する討議を行っていなかった。

トランプ氏の勝利が日本以外のアジア諸国の姿勢にどう影響するかは、依然として未知数である。

日本はすでにTPP参加国のうち米国、カナダ、ニュージーランドを除く8カ国とFTA(自由貿易協定)を締結している。したがって米国抜きのアジア地域のFTAを結ぶことは無益だろう。日米間の2国間協定も同様だ。

TPPの主要な目標の1つは、中国が強く参加を望むよう包括的にすることであり、海外投資や国営企業、知的財産権などに関して、世界貿易機関(WTO)よりも質の高いルールが適用される。

さらにTPPは、中国とASEAN(東南アジア諸国連合)が進めている低品質の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)への対抗措置としても機能するだろう。 TPPとRCEPは、より包括的な貿易協定であるアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)づくりへの足掛かりとなる。

安倍首相が批准を急いだ理由

日本の視点から見れば、TPPの利点は経済および安全保障上の理由から米国をアジアのFTAの枠組みに入れることにある。米国の一部で必要性が叫ばれる貿易促進政策に沿って日米間の2国間協定を結んだとしても、こうした目的達成にはつながりにくい。

TPP批准を国会が承認すれば、異なる協定の批准を承認することが政治的に難しくなる。そのため安倍晋三首相は国会でのTPP批准を急ぎ、ほかの加盟国にも批准を強く求めた。

しかし、仮に米国がTPPに戻るのを待つにせよ数年間はかかる。今のところ日本は、米国の新政権がどう出るかを見守るしかない状況だ。

週刊東洋経済11月26日号

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。目下、日本の中小企業の生産性向上に関する書籍を執筆中。

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