不妊治療のプロが語る、不妊のリアル 日本は妊娠・卵子老化の知識が突出して低い

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妊娠・出産適齢についての知識を踏まえた人生設計を

――若いうちが望ましいとしても、いつ子どもを持つのかは、個人それぞれの結婚観や家族観に委ねざるをえない部分です。

いつまでに産むべきだ、と主張したいわけではありません。医学的に妊娠・出産に適した時期があり、年齢に伴って、その能力がピークアウトするという知識をまず持ってもらう。そのうえで、若くて選択肢の幅があるうちに、人生設計を考え、いつ頃、子どもを産むのか、あるいは産まないのか、を選択していただきたいのです。

卵子の老化については、生殖医療に携わる医師の世界では理解されていましたが、一般の方には十分、知られていませんでした。妊娠にかかわる知識の習得度に関する国際調査では、日本のスコアがほかの先進諸国に比べて突出して低くなっています。WHO(世界保健機関)が提唱するReproductive Health/Rights (性と生殖に関する健康と権利)を行使するための前提となる知識が、日本では普及していないのです。40歳でも妊娠・出産はまったく不可能というわけではありませんが、後になって、厳しい現実を初めて知って後悔することのないようにしてほしいと思います。

――大学の「妊活」講座の講師を務めていますね。

就職する時期をターゲットに、ボランティアで講師をしています。人生を考えるうえで、仕事と家庭の両立は欠かせません。日本では避妊は教えても、家族形成に関する性は教えてきませんでした。女性が妊娠できる能力(妊孕力)には年齢的なピークがあり、適齢期を過ぎると、子どもを持つチャンスを失うおそれもあるということを、男女にかかわらず教育の場で教える必要があると思います。

仕事と家庭を両立させられる社会システムの整備を

――今の日本社会が、仕事と家庭のバランスを失っていることが、不妊治療の増加につながっているということになるのでしょうか。

1989年の第一子出産した母親の平均年齢は27歳で、医学的にも適当な時期に出産していたと言えます。ところが、その後、女性の雇用機会が増える一方で、子どもを育てながら働ける環境は整備されなかったため、仕事を優先し、妊娠・出産は後回しにする、という傾向が強まりました。こうしたライフスタイルの変化の結果、医学的な妊娠・出産適齢期と現実との間のギャップが広がったのではないか、と考えています。2011年の第一子出産平均年齢は30.1歳と30代の大台に乗り、東京都など都市部では、さらに高くなります。

――仕事と家庭のバランスの問題は、個人の努力だけでは解決することは困難なところもあります。

夫婦に理想的な子どもの数を尋ねた調査(2010年)では平均2.42人ですが、1人の女性が一生の間に生む子どもの数を示す合計特殊出生率(2011年)は1.39です。このギャップを埋めるには、社会や中小を含めた企業が、子どもを産み、育てやすい環境を整えることが欠かせません。私がかかわった政府の「少子化危機突破タスクフォース」でも、そのあたりのことは提言に盛り込んでいます。課題は山積していますが、少しでもいい方向に進んでほしいと願っています。

新木 洋光 フリーライター

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新聞社勤務後、フリーランスライターに。経済誌にビジネス、IT、教育、医療、環境分野などの記事を執筆。

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