"公務員ランナー"川内優輝のマネジメント力 限られた時間と環境の中で”成果”を上げる方法

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埼玉県庁職員とランナーという「二束のわらじ」をはき、かつ結果を出し続ける驚異のランナーが川内優輝だ

時間がない。環境が悪い。自分には向いていない。プライベートでもビジネスでも、自分で「できない理由」を探していないだろうか? ついつい言い訳をしたくなるようなご時世かもしれないが、スポーツ界では不可能を可能にする男がいる。それが“公務員ランナー”として有名になった川内優輝(埼玉県庁)だ。

川内はフルタイムで勤務をしながら、2011年の東京マラソンで日本人トップを奪うなど、日本陸上界の“常識”を覆してきた。特に最近はレースでの充実ぶりが際立っている。2月3日の別府大分マラソンでロンドン五輪男子マラソン6位の中本健太郎を下して、2時間8分15秒の自己新で優勝。驚くことに、1カ月半という短いインターバルで出場したソウル国際マラソンでも自己ベストを1秒更新した。今夏に開催されるモスクワ世界選手権の男子マラソンには日本代表として参戦する。

日本が誇る“公務員ランナー”の活動を会社員に当てはめると、通常の業務以外に、「ひとりビジネス」をしていることに近い。そのセカンドビジネスで、資金も人員も潤沢な“企業”と互角以上に戦ってきた。過去のコラム『デキるビジネスパーソンが“走る”理由』も読んでいただきたいが、川内の時間の使い方、マネジメント力もビジネスパーソンの参考になることがたくさんある。

実業団方式だけが正解か?

日本のマラソン界は、「実業団選手」と言われる企業の陸上部に所属するランナーが長年リードしてきた。古くは宗兄弟(旭化成)、瀬古利彦(エスビー食品)、中山竹通(ダイエー)。谷口浩美と森下広一の2人は旭化成というマラソン“虎の穴”で、先輩たちのノウハウと当時、最先端のトレーニングで世界大会のメダリストに輝いた。

近年は藤原新のようにスポンサーを募って、プロ的な活動をする選手が出てきたが、実業団選手の優位は変わらない。モスクワ世界選手権の男子マラソン代表も、川内以外の4人は実業団に所属する選手たちだ。

「実業団ランナー」というシステムは世界的には珍しく、その多くは業務のほとんどが免除され、「走る」ことがメインの仕事となる。そのため、よりよい環境を求めて長期の合宿を組むなど、会社の手厚いサポートで、選手たちは強化を図っている。

反対に公務員の川内は“公務”が最優先だ。入庁した2009年春から現在まで、春日部高校定時制の事務職員としてフルタイムで働いている。勤務時間は12時45分から夜の21時15分までで、時には残業もあるという。平日にトレーニングができるのは午前中のみ。長期の合宿もできなければ、指導者もマネジャーもいない。また、競技に関する費用も自分で賄わないといけないという環境で戦ってきた。

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