「客は二の次」のフランスに日本が学ぶべき事 スーパーが日曜定休でも本当は誰も困らない

拡大
縮小

別のブティックでは、「開店は10時」と書かれた店のショーウインドー越しに、店員が書類を眺めている姿が見えた。そして、ここもドアに鍵がかかっている。客が来ないうちは、店を閉めて事務的な仕事に集中する。ある意味合理的なやり方だ。日本のデパートが時間ぴったりに開店し、店員がお辞儀をして入店する客を迎える光景とは、実に対照的だ。

商品に目を向けてみると、「新商品」と銘打ったものが少ないことに気づく。たとえば、パン屋さん。フランスのパン屋さんで、新商品と書かれたパンは見たことがないし、どこのパン屋にいっても、品ぞろえはあまり変わらない。

『パリの朝食はいつもカフェオレとバゲット』(プレジデント社)。画像をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

スーパーなどで売っている大量生産のお菓子も、日本に比べると新商品が登場する頻度は少ない。「季節限定」のお菓子も見たことがない。この夏にフランスを旅行した際も、10年以上前の最初のフランス滞在の時によく購入していたお菓子とスーパーの棚で再会した。

しかし、その定番のパンやお菓子こそが美味しいのだ。フランス人がよく食べる棒状のパン「バゲット」は、ほんのり塩味がして飽きがこない味だ。それに、パン自体の味が代わり映えしなくても、たくさんの種類があるジャムやはちみつを塗って食べれば、変化はつけられる。そして、同じバゲットでも、店によって、それぞれ個性がある。

推測するに、定番のパンやお菓子が十分に美味しく、売れ続けるから、次から次へと新しい商品を企画する必要はないということではないだろうか。

働くフランス人は、どこか心に余裕がある

サービスを受ける側としては、日本と比べて驚くほど不便に感じるフランス。しかし、暮らしてみると、案外支障はないものだ。そして、その分働く人の負担は軽く、快適に働けるということ。そのせいか、働くフランス人の表情は明るい。同僚同士で冗談を言い合ったり、店の人が客に冗談を言ったりしていて、心のゆとりを感じる。

フランスから帰国して6年が経ち、便利な日本での暮らしをすっかり満喫している私だが、このところ日常生活で心がけていることがある。クリーニング店に服を預けるときや、商店で品物の取り寄せを頼むとき、「お急ぎですか」と尋ねられたら、「いいえ」と答える。スーパーのレジが長くても、イライラしない。自分が少し我慢するだけで、他の人が気持ちよく働けるのなら、それで良いのだ。

日本の行き届いたサービスは、消費者にとって心地よいが、暮らしていくために必ず必要なものだろうか。働きやすい職場を増やすためには、少しくらい不便でも構わない、という姿勢が必要なのだ。

国末 則子 フリーライター

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

くにすえ のりこ / Noriko Kunisue

フリーライター。東洋経済新報社、朝日新聞記者を経てフリーライターになる。2001~2004年、2007~2010年の2度にわたってパリに滞在し、2人の子どもを現地校に通わせた。著書に『パリの朝食はいつもカフェオレとバゲット』(プレジデント社)。
 

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT